フィギュア発売の日、行列に並ぶホームレスと私 すぐそばにある「貧困」を考えてみる

社会

2015/11/27


『すぐそばにある「貧困」』(大西連/ポプラ社)

 個人的な話で恐縮だが、私には「フィギュア」と呼ばれる立体造形物を集める趣味がある。このジャンルは大人を中心に意外と人気があり、商品によっては行列ができるほど盛況だ。私も目当ての商品の発売日になると、量販店の前に並ぶ行列のひとりと化す。しかしその列の中に、どう見ても同好の士とは思えぬ人間の姿が混じっていることがある。おそらく路上生活者であろうそのオッチャンは、割と早い時間帯からいるのか、行列の最前列に位置していることが多い。それほどフィギュアが欲しいのか? そんなことは、おそらくない。これはいわゆる「並びの仕事」というものだ。報酬を得て、商品が欲しい人の代わりに並んでいるのである。

 こういった路上生活者のような、何らかの理由で「貧困」に窮している人々の現状を『すぐそばにある「貧困」』(大西連/ポプラ社)は、赤裸々に語っている。著者である大西氏は生活困窮者の支援団体「認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい」の理事長で、自身の体験をもとにさまざまな困窮者のケースを紹介。「貧困」が実は身近な問題であることを強烈に訴えている。

 例えば2010年に行なわれた新宿中央公園の炊き出しには、500人ほどが並んだという。路上で横になっているホームレスは気にならなくても、1箇所にそれほどの人数が詰めかけている光景を目撃すれば、相当な衝撃だろう。つまり新宿界隈にはそれだけ多くのホームレスが存在しているということなのだ。さらに本書のコラムでは、ホームレスの多様化にも言及。最近ではネットカフェ難民のように、マンガ喫茶やファストフード店を転々とするホームレス予備軍も増えていると警鐘を鳴らしている。

 そして「フクシ」と呼ばれている、生活保護の申請。生活保護は、さまざまな理由で一定水準以下の収入や資産状況になった時、利用することができる制度だ。居住地にある役所の福祉事務所に申請し、審査を受けて通れば受給できる。しかしホームレスの人々にはそれぞれ事情があり、一筋縄ではいかないケースも。役所で紹介された施設に馴染めず逃げ出すケースや、ペットと一緒でなければ施設で暮したくないといったものまで多種多様だ。

 さらに生活保護には「不正受給」という問題が常につきまとう。2012年にお笑い芸人の肉親が生活保護を受けていたことが明るみに出て、ワイドショーなどが大きく報道した。この件は不正受給には当たらなかったのだが、「道義的責任」ということでその芸人は謝罪。生活保護のあり方について国会でも取り上げられるなど、「生活保護バッシング」はヒートアップしていった。

 なぜこれほどの騒動になったのか。それは大西氏がいうように「『税金で養ってもらっている』『努力しないやつが使っている』というネガティブな価値観が広がっている」からだろう。結果、狭義においては「もやい」に対する誹謗中傷の電話が鳴るようになり、広義では「社会保障制度改革推進法」が制定された。これは最低生活保障の面に関しては、かなり厳しい内容なのだという。

 確かに、現在制度を利用していない人々が、その必要性を軽んじる気持ちは分かる。しかし「ワーキングプア」の問題や、最近よく聞くようになった「老後破産」という現象からも、バッシングをしていた人々が将来、生活保護を必要とする可能性も否定はできないのだ。今必要ないからと、制度をなくしてしまったとして、いざ必要となったときに困るのは自分自身かもしれない。実際、2015年7月現在の生活保護受給者数は216万人にものぼるのだ。私とても他人事ではない。老後に備えて少しでも蓄えておかねばならない、とは思うのだが。それでもおそらく次の週末には、変わらずフィギュアを求めて行列を成しているだろう未来が見える。きっとあのオッチャンもまた、最前列に座しているんだろうな……。

文=木谷誠(Office Ti+)