尾野真千子が異常な殺人鬼役に! ドラマ化が相次ぐイヤミス界の旗手・真梨幸子作品に注目

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16

ゾクゾクするような後味の悪さにイヤな気分になるミステリー作品、通称“イヤミス”。そのブラックな世界には独特な魅力があり、数年前から中毒者が続出、いまや人気ジャンルとなっている。この秋、中でも「女の黒さを描かせたらピカイチ!」と評判のイヤミス界の旗手・真梨幸子の作品が、相次いでドラマ化されることになった。

心の奥の闇までじわじわと描かれる作品世界は実に鮮やかな切れ味なのだが、なんと真梨作品の映像化はこの秋が初めてのこと。もしやイヤミス独特の毒に製作陣が尻込みしていた…!? 真相はどうあれ、ワンシーズンに2作もドラマで楽しめるとはファンはもちろん、一度でも真梨作品に触れたことのある読者なら興味津々だろう。

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なんといっても注目は真梨幸子の代表作である『殺人鬼フジコの衝動』(徳間文庫)のドラマ化だ(オリジナルドラマ『フジコ』として、動画配信サイトHuluにて11月13日に配信開始)。50万部を超える大ヒットとなった本作は、一家惨殺事件の唯一の生き残りとして新たな人生を歩みはじめた11歳の少女・フジコが、普通に幸せに生きたいと願いながらも、十数人もの人を殺す殺人鬼として大きく道を踏み外していく様を克明に描く衝撃の物語だ。

いじめ、児童虐待、貧困、新興宗教、整形…背景にあるキーワードだけでもそのしんどさが窺えるというものだが、とにかく驚くのはこのフジコという女の抱える闇のとてつもない深さだ。一般に「殺人鬼」というと、快楽殺人などサディスティックな激しさを思い描くが、フジコは強いていえばどこにでもいそうな「普通の女」。他人に好かれようと、周囲から浮かないようにと、自分の意志より周囲にあわせるタイプであり、イヤといえない極端なまでの主体性のなさが、他人につけいるスキを与えて災いを呼び込む、根っからの不幸性だ。

ただし彼女がそのへんの女と大きく違うのは、不幸な窮地を一発逆転しようと引き起こすのが、邪魔な虫を払うかのように簡単に行う「殺人」だということ。遺体はミンチにして廃棄し、反省の色はゼロ。「なんで私の邪魔をするの?邪魔をするあなたが悪い」「バレなきゃ大丈夫」と、小学校のクラスメート、彼を奪った親友、夫と娘……驚くほど自分本位に次々と人生の邪魔者を手にかけ、それでも「幸せ」を夢見て日々を生きていく。

結局のところフジコにとっての幸せが「金」や「美」や「羨望」であるのはステレオタイプな気もするが、むしろ「典型的な女」であるその性格をあわせて考えるなら、そこにこそ「女」というものへの作者の悪意が透けて見えるともいえる。ラストで明かされる戦慄の事実など最後まで目が離せないミステリーとしての醍醐味もさることながら、潜在的な嫌悪を抱きながらフジコからなぜか目が離せないのは、どこか女というものの哀れさに心の奥が反応するからかもしれない。

ドラマでフジコを演じるのは女優の尾野真千子。インタビューで「最後まで(フジコに)共感は一切できなかった。私なりの解釈でこの破滅的な女性を演じきったが、演じていてとてもつらかった」と語っているが、狂気の先の女の哀しみをどう演じるのか、否が応にも期待は高まる。

なお、ほかにも連続不審死事件をめぐる女だらけのサスペンス『5人のジュンコ』(WOWOW にて11月21日より)もドラマ化。約1年ぶりのドラマ主演となる松雪泰子と、ミムラ、西田尚美、麻生祐未、小池栄子ら女優陣の演技合戦も見ものだ。

本でドラマで“イヤミス”にどっぷりつかるこの秋は、異色の季節になりそうだ。ハマりすぎにはご用心、ご用心。

文=荒井理恵

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