注目の本格ミリタリーマンガ『GROUNDLESS』隻眼の女狙撃兵の壮絶な生き様を描く!

マンガ

更新日:2016/1/14

『GROUNDLESS』(1)
最新5巻

 ISISによるパリのテロ事件やトルコのロシア軍機墜落など、我が目を疑うようなニュースが後を絶たない。しかし、過去を振り返れば人類の歴史は戦争の歴史である。人が集まれば、必ず争いが起こる。銃器や戦車を用いた近代戦は、如何に兵士に効率よく殺人を行わせ、戦略目的を達成するか、そのためにはどんな残虐非道もまかり通る無法の世界である。

 『GROUNDLESS』(影待蛍太/アクションコミックス)は、そんな醜悪な戦場に放り込まれたひとりの女性の物語だ。本作は、作者の個人サイト上で配信中のWEBコミックを単行本化した作品。銃弾が飛び交う戦場を生き抜く兵士たちの人間ドラマを臨場感溢れる力強い筆致で描いた本格ミリタリー仮想戦記である。

 内乱が続く島国アリストリア。中部の街ダシアで暮らすソフィアは、武器卸業を営む夫と娘の3人で穏やかな日々を過ごしていた。ある日、政府軍から銃の大量発注を受けるが、それは反乱軍と裏で繋がっていたグレゴリオ大佐の仕組んだ罠だった。目の前で夫を殺され、娘を奪われ、自身も左目を潰され、すべてを失ったソフィアに唯一残されたのは形見の狙撃銃。絶望と復讐心がソフィアの眠っていた狙撃の才能を目覚めさせる。

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 ソフィアの狙撃は”凄まじい”の一言だ。どんな遠距離からでも一発の銃弾が敵兵の急所を撃ち抜く。彼女が引き金を引けば、誰かが死ぬ。確実な死をもたらす狙撃の恐怖が敵軍を萎縮させ戦場を支配する。大軍を相手に寡兵の自軍の劣勢をはね返す、まさに勝利の女神だ。しかし神がかった狙撃の腕を持ちながらも、彼女の精神はとても脆い。殺戮を行った後は、人殺しの罪の意識に苛まれる。しかし自分が撃たなければ味方が死ぬ。戦場で次第に心を磨り減らしていくアンバランスな危うさがソフィアの魅力だ。

 ミリタリー知識に詳しくないという読者のために、作中では狙撃の狙い方、部隊の運用法などもわかりやすく解説されている。部隊の後方で支援するソフィアの視点だけでなく、前線に立つ兵士、さらには敵と味方の視点がコマごとに入れ替わり、戦場に立っているかのような緊迫感や焦燥感が伝わってくる。死と隣合わせの状況におかれた兵士たちの鬼気迫る表情に惹きこまれる。そんな兵士たちも戦闘の合間には、ほっと息をつくときもある。そうした場面では、お調子者だったり、食いしん坊だったりごく普通の人間らしい素顔が現れる。シリアスな中にあるコミカルさのギャップが絶妙だ。

 本作が描き出すのは戦場のリアリズムだ。昨日まで平穏に暮らしていた人たちが突如、戦争に巻き込まれ、否応なしに殺すか殺されるかの理不尽な二択を迫られる。人種の迫害や、主義主張の衝突など問題は山積みだ。殺伐とした世界観だが、人生とはそうした不条理に立ち向かう戦いなのだと教えてくれる。残酷な運命に戦いを挑んだこの女性の生涯を最後まで見逃すな。

文=愛咲優詩

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