相続、教育…きょうだい間の確執 その原因は生まれ順…ではなく…

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公開日:2015/12/11


『きょうだいコンプレックス』(岡田尊司/幻冬舎)

 第一子として生まれた人は「弟、妹として生まれたかった」といい、第二子として生まれた人は、「兄、姉がよかった」という。このように、兄弟姉妹をうらやましく思った経験は、だれにでもあるだろう。同じ親から生まれた、性格が違う身近な相手――。きょうだいは、己の性格や人生を比較する対象になりやすい。相手に対して、憧れや好意を持っていれば関係は良好だが、妬みや性格の違いから仲が悪くなってしまうとやっかいだ。

 大塚家具のお家騒動が、連日ニュースに取り上げられたのを憶えているだろうか。町のタンス店から一代で会社を急成長させた会長(父)と、跡を継いだ現社長である長女(第一子)との経営権をめぐる争いだ。この騒動は、長男が父側につき、他のきょうだいたち3人が長女側につくという、きょうだいを二分する争いでもあった。長男は、芸術系の大学を出た親に従順な性格。一方、長女は経営学部を出た自分の意見をはっきり口にする性格。精神科医、岡田尊司の著書『きょうだいコンプレックス』(幻冬舎)から、このきょうだいを例に、生まれ順と性格の関係に注目してみた。

 著者によると、一般的には、生まれ順で次のような性格の傾向があるという。

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・第一子は、プレッシャーに弱く現実の見通しが甘いが、親から多くの愛情や期待をかけられるので、学業に秀でることが多い。
・第二子は、親から放置される寂しさを覚えるが、自由で世渡り上手。きょうだいが3人以上の中間子だと、自立能力に優れる。
・末っ子は、親やきょうだいたちからいつまでも可愛がられるので、依存性が高くなりがちだが、人間関係での衝突を避け上手く立ち回れる。

 大塚家具の場合、長女は、第一子の良い面が出た優秀な人物。5人兄弟の一番上ということで、他のきょうだいの面倒をよく見るしっかり者で、親に意見することも臆さない。一方、長男は、第二子だが、男子。親に従順な性格であったため、明らかに他のきょうだいと比べて親からの愛情を多く受けていたようだ。日本は男子を重んじる傾向が強いので、第一子でなくても長男であれば、親から贔屓されることは多い。他のきょうだいたちが、長女側に付いた動機には、長男への嫉妬心が隠れていたのかもしれない。

 この例でわかるように、きょうだい同士の、大人になってからの確執はやっかいだ。相続問題を機に、「あなたは教育費を掛けてもらったのに、私は進学させてもらえなかった」「お母さんはいつもあなたばかり贔屓していた」などと、積年の恨みが噴出し、収拾がつかなくなることも多い。こうしたきょうだい間の争いは、一見、本人たちの性格の違いによる擦れ違い、妬みのぶつけあいのように見える。しかし、何と原因の真相は親なのだという。

 童話『白雪姫』は、母が娘を殺そうとするところから物語が展開する。女王である継母(実母という説もあり)は、自分が一番でないと気がすまない。我が子であろうと、自分の成功や幸福を邪魔する者が許せない未熟な精神の持ち主だ。こうした親は、「良い子=自我が弱く親に従う子」「悪い子=自我が強く親に従わない子」というレッテルを子に貼り付ける。「良い子」は愛され、「悪い子」は愛されない。子供が親に愛されたいと思うのは、生物学的な本能でもあり当然のことだ。それなのに、親の身勝手なレッテルによって、それが満たされる者と満たされない者とに分けられる。こうして、愛されない者は、愛された者に恨みを抱く。これがきょうだい確執の原因の核となっているのだ。

 さらに悪いのは、親がこれに乗じるケースだ。親と「良い子」が結託し、「悪い子」の1人をスケープゴートにする。これは、夫婦関係が上手くいっていない家庭などで発生する現象だ。だれか1人を生け贄にすると、それ以外の者は結びつきを強められるので、家族の絆を保つために無意識に行われてしまう行為だ。悲惨なのは、家族の中で、生け贄の役割を負った者は、社会で人間関係を築く際にも、同じ役割を背負うことが多いこと。自分は生け贄にされて当然という低い自尊感情を持ってしまうので、集団の中で、いじめのターゲットになる確率が高いのだ。

 生まれる順で性格や人生がすべて決まるとは言えないが、家族との関係が大きく影響していることは確か。そうかといって、自分の嫌な部分や、人生が上手くいかないのを、親ときょうだいのせいばかりにしていたのでは、幸せにはなれまい。頭の片隅にこの知識を置きつつ、自分や家族を責める姿勢から一歩引いて、冷静に自分の幸せを求めていきたい。

文=奥みんす