バナー広告で約40万DLを記録! 「児童虐待」を真正面から描いた『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』に、涙が止まらない…

マンガ

更新日:2016/1/8


『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』(夾竹桃ジン/小学館)

 乱雑な部屋に取り残された様子の乳児と女の子。チェーンがかかったドアの隙間から、少女に声をかけている母親らしき女。そして、ひときわ目立つ赤で記された「いい子にしてたらランドセル買ってあげるから」という意味深な文字――。これは、『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』(夾竹桃ジン/小学館)の電子書籍版バナー広告だ。

 本作は、この不穏さを感じさせるバナー広告が話題となり、約1カ月で40万ダウンロードを達成。さらに、2011年に発売されたコミックスも、発売から4年を経て、初めて重版がかかったそうだ。決して新しい作品ではないのにもかかわらず、ネットで火がついた本作。いったいどんな作品なのか、軽い気持ちで読んでみたが、実に重い内容だった…。

 タイトルにある通り、本作は児童相談所をテーマにした作品だ。主人公となるのは、新米児童福祉司の相川健太。そこで描かれるのは、親から虐待を受ける子どもたちと、彼らを救うために奮闘する児童福祉司の姿である。

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 前述のバナー広告に掲載されたのは、本作の第一エピソードに登場する幼い姉妹・莉子と愛莉。そして、彼女たちの初登場シーンが、とにかく衝撃的なのだ。文字通り、骨と皮になるほどやせ細った莉子。そして、汚れたおむつをつけ、泣きわめく愛莉。部屋はゴミだらけで、衛生状態も良くない。それもそのはず。彼女たちの母親は、ドアの隙間からコンビニ弁当を投げ入れ、「ふたりでわけて食べなさい」と言うだけなのだ。チェーンのかかったドアは、まだ幼い莉子には開けられない。実質、監禁状態である。母親は、育児放棄という名の虐待をしているのだ。

 この時点で、読み手の心が揺さぶられる。まだ幼く、自ら助けを求めることができない姉妹。彼女たちの命をつなぐのは、定期的に届けられる弁当やファストフードだけ。状況は最悪だ。それでも、母親がやってくるたびに喜ぶ莉子の姿が痛々しく、悲しい。

 しかし、少しずつ事態は明るみに出ていく。愛莉が1歳6カ月健診を受けていないこと、莉子が入学式にも出ていないこと、そしてなにより、ふたりの姉妹の姿を誰も目にしていないこと…。ふたりは虐待を受けているのではないか。そう強く確信した相川は、児童福祉司になってわずか5日目にして、事件解決へと走りだす。

 最終的に、ふたりの姉妹は相川の手によって助けだされる。愛莉は極度の脱水症状と栄養失調で、虫の息というギリギリのところだった。それに対し、莉子は、自分がきちんとご飯を食べさせなかったからだと、母親に謝ろうとする。そこで相川が言う。「莉子ちゃんは何も悪くないよ。何も…悪くない」。

 世の中には、泣けるマンガというものがあるが、本作は間違いなくそのひとつだろう。圧倒的に無力で弱い存在である子どもたちと、彼らを救おうとする児童福祉司。その静かなドラマは非常にリアルで、社会問題となっている児童虐待について考えさせられるだろう。

 ちなみに、新米の相川が、なぜ莉子と愛莉の虐待に気づけたのか。それは、彼自身も、幼少期に虐待を受けて生き延びた「サバイバー」と呼ばれる存在だから。自らの体験がフラッシュバックし、ふたりの少女が放つSOSを受け取ることができたのだ。

 たったひとつのバナー広告をきっかけに、こうして注目を集めるようになった本作。試しに読む…にはやや重いが、読んでみて後悔することはない名作だろう。ぜひ、児童虐待のリアルを、その目で確かめてみてほしい。

文=前田レゴ