これであなたも鉱物マニア! 鉱物のおもしろ図説決定版!!

科学

公開日:2015/12/20


『図説 世界史を変えた50の鉱物』(エリック・シャリーン:著、上原ゆうこ:訳/原書房)

 人類と鉱物は切っても切れない深い関係にあるのを、みなさんご存じだろうか? 私たちの祖先といえるヒト科の動物と、現代の人間との大きな違いは、「道具」とりわけ「鉱物」をいかに利用できたかということにも関わってくると思う。

 私たちの文化文明を支え続けてきた「鉱物」。だけど、その存在の詳細を知るのは、一部の研究者だけではないだろうか。『図説 世界史を変えた50の鉱物』(エリック・シャリーン:著、上原ゆうこ:訳/原書房)は、そんな身近で遠い存在の「鉱物」を、世界史を引き合いに出して紹介してくれている。いくつか抜粋して、奥深い鉱物の魅力に迫ってみよう!

ダイヤモンド

分類:結晶、宝石の原石
起源:地球のマントル深部
化学式:C

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 長い間、人類に愛されてきた不滅の宝石、ダイヤモンド。これも鉱物の一種と考えられる。ダイヤモンドは、そもそも「炭素」で出来ている。地中深いマントルの中で強い圧力を掛けられることにより生まれた。とても硬い「炭素」なのである。

 今日では婚約指輪の代表とされる。起源は15世紀のヨーロッパにまでさかのぼるが、この習慣が広まったのは1930年代になってからだという。

 何世紀もの間、王侯貴族の間では身に纏われていたが、19~20世紀の間に多くの人へ普及したといわれている。

砒素(ひそ)

分類:半金属
起源:自然砒素、および砒素を含有する鉱物
化学式:As

 「砒素」というと、一昔前のミステリー小説を思い浮かべる方も多いのではないだろうか。「毒薬」というイメージが強い砒素だが、実は半金属に分類され、金属としての性質も内包している。

 毒物としての恐ろしいイメージに反して、砒素化合物は自然環境の中に、ごく普通に存在する。土壌や植物、魚介類、人間の体内にさえ存在している。

 今となっては自ら口にする者などいないだろうが、19世紀には「砒素を食べる人々」の存在が報告されている。オーストラリア南東部、スティリア地方の人々は、砒素によって精力が増進され、女性はグラマーになり、肌の色つやも良くなると信じられていたらしい。

 また、かの有名なナポレオン1世(1769~1821)の死因は、この砒素を顔料として用いた「緑の壁」だったのではないかといわれている。セントヘレナ島に幽閉されたナポレオンは、シェーレ緑と呼ばれる砒素顔料が使用された壁紙の部屋で生活していた。湿気が多い島の気候が災いし、壁紙に生えたカビによって砒素顔料がアルシンガスに変化。高濃度の砒素を吸い続けることにより、ナポレオンは亡くなったという説があるのだ。

鋼(はがね)

分類:合金
起源:鉄鉱石
科学式:Feとさまざまな量の炭素(C)

 鋼の冶金術の発達を促進させたのは、ひとえに「戦争」である。ごく早い時代から、鉄鍛冶師は、錬鉄に混ぜる炭素の量を調整することで鋼を作り出していたが、化学式のプロセスを理解していたわけではないという。鉄鍛冶師たちの、長年の試行錯誤と、経験を生かして得られた知識であった。西欧では、鋼は鎧や剣の原料となり、日本では日本刀の作成に用いられた。日本刀は鋼を用いた武器として、職人の技術が最も優れているという定評があるほどだ。

 その特性は、2種類の鋼を使う、独特の製法が用いられていることである。刀身中心部は炭素含量が少なく、柔らかい鋼を用いることにより、折れにくい刃を再現している。その周囲に、炭素を多く用いた硬い鋼を巻き付けることにより、鋭い刃先を保つことが出来るようになったのだ。みなさん、炭素の含有量によって異なる鋼を用い、日本刀が作られていたことはご存じだっただろうか?

 以上のように、実に50もの鉱石について、雑学を絡めて紹介してくれている。

 フルカラーで読みやすく、ここまで詳細な図説にもかかわらず、お値段もそれほど高くない。「図説 世界史を変えた○○」シリーズと共に、自宅の書棚に並べておけば、いつでも知的好奇心を掻き立てられること間違いない一冊だ。

文=雨野裾