「プリンス」と10回言って下さい。…では、シャンプーの後にかけるのは?【心理的メカニズムの不思議】

科学

公開日:2015/12/24


『心を上手に操作する方法』(トルステン・ハーフェナー:著、福原美穂子:訳/サンマーク出版)

 「最近テレビによく出るあの女性は、高飛車でスタッフ受けが悪い」「田中さんの奥さんは職場で若い男性と不倫しているらしい」「あの政治家が公共事業に精を出しているのは賄賂をもらっているから」など、私たちの周りには噂が絶えない。そのほとんどが真偽を確かめられないものだろう。そうであるならば、その場限りの話題として済ませればよい。しかし、多くの場合、だんだんと信ぴょう性が増していき、いつのまにかその噂が真実だと思い込んではいないだろうか? 私たちは往々にして噂話を信じてしまう。

 『心を上手に操作する方法』(トルステン・ハーフェナー:著、福原美穂子:訳/サンマーク出版)の著者は、私たちが噂話を信じるのは、その話が何度も繰り返し耳に届くからだと分析する。根拠は、「大勢の人が同様の間違いをするはずがない。みんなが同じことをしているのなら、そこには意味がある」と思い込む心理(チャルディーニ「社会的証明の原理」)である。思い起こしてみれば、テレビショッピングでは、商品のユーザーが複数名出演して、「この商品で自分の生活はずいぶん変化した」と述べるシーンがよくある。これは信じやすくなる人間の心理を利用した手法なのかもしれない。

 このようにこの本には心理メカニズムに関する解説が多く掲載されている。もう1つ、購買意欲を高める手法をご紹介しよう。それが「試食」である。試食スペースが設けられていると、テンションが高まるという人も多いだろう。だが、その時点ですでに私たちは心を操られてしまっているのかもしれない。

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 次の2つのケースにおいて、あなたが充実した回答用紙を送りたいと考えるのはどちらだろうか。

(1)アンケート用紙を送付した2週間後に5000円分の商品券が送られてくる場合
(2)アンケート用紙と5000円分の商品券が同時に送られてきた場合

 「明日の親鳥より今日の卵」という言葉があるように、(2)の方がすでに商品券を受け取っている分、「しっかり役目を果たさなくては!」と責任を感じるのではないだろうか。実際、外国で行われた調査では、(2)の方が(1)よりも2倍の回答が集まった。“恩”を大切にする日本でならば、より顕著な結果が得られるかもしれない。これを「返報性の原理」と呼ぶ。これを試食に置き換えてみると、試食で美味しい想いをさせてもらった分、商品を購入してそのやさしさに報いようと考えるというわけである。

 この本に掲載されているのは、心理メカニズムだけではない。「本書を読んでくれた人に、読んでよかったと思ってもらいたい」(同書27頁)との著者の願いから、この本にはたくさんの手品マジックなどの小ネタが掲載されている。その1つをここでご紹介したい。

 次の数字を順番に読み、そのあとに続く数を言ってほしい。

いっせんきゅうじゅうよん
いっせんきゅうじゅうご
いっせんきゅうじゅうろく
いっせんきゅうじゅうなな
いっせんきゅうじゅうはち
いっせんきゅうじゅうきゅう
では、次の数は?

 どうだろうか。その数は――2000? いや違う。正解はいっせんひゃく(1100)だ。視覚マジックといえるかもしれない。ただ、2000と答えた人もどうかイラつかず、安心してほしい。これは「カチッ・サー」と名付けられた現象で、多くの人が引っかかるものである。人は同じパターンの延長線を辿ってしまうのだ。いわゆる「10回クイズ」にもこのトリックが使われているといえるだろう。

 引っかかってしまった方はぜひリベンジをしていただきたい。

「プリンス」と10回言ってほしい。
では、シャンプーの後にかけるのは?

 落ち着いて考えればわかるはずなので、ここで答えを書くことはあえてしない。もしわからないという方でも、お風呂に入るときにはわかるだろう。リンスでないことだけは確かだ。

 私たちの日常生活には、思いのほか、心理テクニックがあふれている。この本を読めば、きっとほかにも「あれはそういうことだったのか!」と気づくことができるだろう。

文=朝倉志保