『ベルセルク』三浦建太郎が受けた『スター・ウォーズ』の衝撃!<1>

映画

更新日:2021/5/20

 漫画『ベルセルク』で知られる漫画家の三浦建太郎先生が5月6日、急性大動脈解離のため亡くなったことを白泉社が公式サイトで発表。心からご冥福をお祈り申し上げます。

前の時代のSFと違う『スター・ウォーズ』を多感な頃に観た人たちは、 心に印象を焼き付けられて、それ中心にしか考えられなくなっちゃったんです

代表作『ベルセルク』

 

“映像アトラクション”の元祖『スター・ウォーズ』

 『スター・ウォーズ』って、僕らくらいの年代の人は全員頭をブン殴られるくらいのショックを受けてるんですよ。僕は小5か小6くらいで初めて『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』を見たんですけど、それまで僕らが見てた映画ってダイナメーション(※1)とか、SF映画でも『宇宙水爆戦』(※2)のような宇宙船が横に飛ぶ、演劇に近いような映像だったんです。大魔艦が出てくる『惑星大戦争』(※3)とかもあったんですけど、どれもこれも『ウルトラマン』(※4)とかの影響なんですよね。

advertisement

 でもそれが『スター・ウォーズ』でホントに変わっちゃって、いきなり頭の上から巨大な三角形の宇宙船が出てきたんですよ! これって「映像のアトラクション」っていうものが世界で初めて出来た瞬間だと思うんです。それ以来、映画はできるだけそういう形にしようってなっていきましたよね。

 

“あるある詐欺”に騙され続けた青春時代

 漫画を描きたいとか、アニメとか映画をやりたいといった「ものを表現する人」で、1980年前後に多感な頃を過ごして、前の時代のSFと違う『スター・ウォーズ』を見た人たちは、その印象が焼き付けられて、それ中心にしか考えられなくなっちゃったんですよね。もちろん僕も影響を受けてますよ。でも今の若い子たちって、時間軸なしに全部同じように並べられて『スター・ウォーズ』を見るじゃないですか。あれって気の毒だなと思うんです。こういう順番で時代のショックを受けてきたんだよ、っていうのを伝えたいですね。

 順番通りに見られたことはすごく幸せだったんですけど、不幸もあるんですよ。僕らは「きっと日本のSFも、いつか『スター・ウォーズ』みたいなものが出来るんだろう」と思っていたんですけど、そういう“あるある詐欺”を繰り返されちゃったんです(笑)。

 最初は『宇宙からのメッセージ』(※5)だったかな。ヴィック・モロー(※6)とかが出ていて、石ノ森章太郎(当時は石森章太郎)さん原作の和製スター・ウォーズみたいなSF映画があったんですけど、一番の違いは「モーションコントロールカメラ」(※7)で、あれって『スター・ウォーズ』の映像を作るのに絶対必要だったものなんですけど、日本はやっぱり糸で吊ってる「特撮」になっちゃうんですよ。そうなると「ああ、これはなんか戦隊ものの延長だな」というふうにしか見えないんです。乗り込んだ敵地も、なんとなくショッカーの基地なんですよ。首領様のいる部屋の後ろの書割りもまんま、みたいな。で、顔に金粉や銀粉を塗った人たちが出てきて宇宙人だ、と言い張ってきて…どうしてもそこから抜け出せないんですよね(笑)。

 

スター・ウォーズの「呪い」

 その後『さよならジュピター』(※8)が公開されて、これは本当に期待させてくれたんですよ。宣伝だけ見てると「凄いのが出来たな」と思って、胸をときめかせながら映画館へ行ったら…もろミニチュア(笑)。例えばパイプの先に居住区がくっついてて、そこがポッと取れて、宇宙船になってウィーンって飛ぶんですけど、ただ飛ぶだけ。でも『スター・ウォーズ』だったら下の部分にギミックがあって、ちゃんとジェットを噴射して飛んでいくだろう、とみんな思ったんです。

 そういうひと手間ひと手間から、なんで日本のSFはみんな詰めが甘いんだ、って当時の小学生や中学生は思ったワケです。日本のSFの歴史や『ゴジラ』(※9)はすごかったとか、円谷英二さんはすごいんだって話を聞かされても、僕らは『スター・ウォーズ』を見ちゃった後なんですよ。だからいくら言われても「『スター・ウォーズ』には勝てないじゃん!」という呪いが子どもたちにかかってるんですよね。(つづく)

 

(※1)ダイナメーション…実写での俳優の演技をスクリーン・プロセスでコマ送り投影しながら、内部に可動式骨格をセットした人形などを動かして合成した映像のこと。20世紀の特撮を変えたレイ・ハリーハウゼン(1920~2013)が開発した手法。『アルゴ探検隊の大冒険』(1963年公開のイギリス・アメリカ映画)での骸骨剣士などが有名。

(※2)『宇宙水爆戦』…1955年公開のアメリカ映画。監督ジョセフ・ニューマン。優れた地球人科学者が宇宙人によって集められ、星間戦争で使う新型兵器の開発を命じられるが、そこから脱出しようと戦うSF映画の古典。むき出しの巨大な脳のような頭にギョロ目というビジュアルの「メタルーナ・ミュータント」というキャラクターを生み出した。

(※3)『惑星大戦争』…1977年公開の日本映画。監督・福田純、特撮監督・中野昭慶。「大魔艦」に乗って地球を侵略しようとするヨミ惑星人に対抗するために作られた宇宙防衛艦「轟天」が金星で戦う。森田健作、浅野ゆう子らが出演。1963年公開の映画『海底軍艦』のリメイク。

(※4)『ウルトラマン』…1966~67年放送の特撮テレビ番組。制作は円谷プロダクション。怪獣や宇宙人による問題を解決する科学特捜隊の隊員ハヤタがウルトラマンとなり、地球の平和を守る物語。敵であるバルタン星人やジャミラ、ゼットンなどの怪獣も人気となった。以後シリーズ化し、約半世紀経った現在も続いている。

(※5)『宇宙からのメッセージ』…1978年公開の日本映画。監督・深作欣二。原案は石森章太郎、深作欣二ほか。ヴィック・モローが主演し、志穂美悦子、真田広之、成田三樹夫、天本英世、丹波哲郎、曽我町子、千葉真一らが出演、芥川隆行がナレーションを務めた。曲亭(滝沢)馬琴『南総里見八犬伝』をモチーフとしたスペースオペラ。

(※6)ヴィック・モロー(1929~82)アメリカの俳優。55年映画『暴力教室』でデビュー。テレビドラマ『コンバット!』で主役のサンダース軍曹を演じて人気となる。その後、映画『がんばれベアーズ』などに出演。83年公開の映画『トワイライトゾーン/超次元の体験』の撮影中に事故死。

(※7)モーションコントロールカメラ…カメラや被写体の位置をコンピュータに入力し、自動でカメラを動かして撮影するシステム。同じ動きの繰り返しやフレーム単位での撮影が可能なので、SFXや多重合成、ミニチュア合成、CGなどに向き、経費や撮影時間の削減も可能にする。また人間によるマニュアル操作では難しい撮影などにも使われる。

(※8)『さよならジュピター』…1984年公開の日本映画。監督・橋本幸治、小松左京(脚本も担当)。2115年、地球にブラックホールが接近、木星を爆発させることで軌道変更しようとする物語を軸に、環境問題やラブストーリーも絡めて描いたSF作品。三浦友和、小野みゆき、平田昭彦、岡田眞澄、森繁久彌などが出演。主題歌は松任谷由実『VOYAGER~日付のない墓標』。

(※9)『ゴジラ』…1954年公開の日本映画。本編監督・本多猪四郎、特撮監督・円谷英二。日本怪獣映画の元祖。昭和~平成にかけてシリーズ28作が作られた。また庵野秀明、樋口真嗣のコンビが制作する新作『シン・ゴジラ』が2016年に公開予定。ハリウッドでも2度リメイクされ、新作『ゴジラ2』『ゴジラ対コング』が制作されると発表された。

 

取材・文=成田全(ナリタタモツ)

【第2弾】『ベルセルク』三浦建太郎「『スター・ウォーズ』は日本人のコンプレックスを毎回刺激してくるんですよ」

【第3弾】『ベルセルク』三浦建太郎 「ジョージ・ルーカスが“物語を作る基本”を教えてくれた」<3>