少女の賞味期限は19歳? 若者の語られない性を描く『ヒメゴト』

マンガ

公開日:2015/12/24


『ヒメゴト~十九歳の制服~』(峰浪りょう/小学館)

 かつての日本人は男っぽい女性を「女らしくない」と罵り、女性的な男性を「男らしくない」と糾弾してきた。

 今、日本は少しずつだが変わり始めた男女の“性”、ジェンダーに対しても寛容になりつつある。ボーイッシュな女に、女装する男、同性にときめく女たち。今回ご紹介する漫画『ヒメゴト~十九歳の制服~』(峰浪りょう/小学館)には、それぞれの性への悩みを抱えるイマドキの大学生たちが登場している。スマホの広告などで、ショッキングな見出しと共に漫画のワンシーンが描かれているから、なんとなく本書を知っているという人もいるかも知れない。だが実際に本書を読んでみると、広告で切り取られているワンシーンよりも、紹介されていない中身の方が、もっと過激で衝撃的な内容だということがわかるだろう。

 自分を「15歳の少女」だと偽って自ら性を売る少女。大学生になるまで男っぽく振る舞っていたことを今更になって後悔し、セーラー服姿で自らを慰めるマニッシュな少女。キレイな女になりたいと日夜女装に励む少年。それぞれ個性的な性の悩みを抱く面々が複雑な関係を築き合い、お互いに足りないものを補おうとする――というのが簡単な本書のあらすじだ。

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 彼女らの今まで見たこともないような、歪な三角関係がこの作品の肝となっている。現実では考えられないような関係だが、なぜかとてもフィクションの中の出来事とは思えない説得力がある。突拍子もない行動がリアルに感じられ、見るものを驚かせ、引き込んでいく。決して美しい大学生の青春物語ではないのだが、オトナになることを恐れる彼女らの歪な友情関係は、よくも悪くも先が見えないから続きが気になってしまう。

 お互いに足りないものを補おうとする彼女らが、求めても手に入れることができない理想を追い求めるあまり、他人を裏切り、自分を傷つけていく。そして、皆一様に、オトナになることを恐れている。まるで、19歳を過ぎて、成人になってしまったら少女としての賞味期限が切れて、すべての楽しみがなくなってしまうかのように。

 どこぞのオヤジのように「最近の若者は!」と言いたくはないが、この作品を見ていると、本当に最近の若者は何を考えているのかわからないと考え込んでしまった。特に今の時代、一昔前に比べて確実に若者の性は複雑になっている。少なくとも昔はメディアで「女装男子」や「男装女子」などは、好意的には報道されなかった。しかし、今はそれらがファッションの一部として受け入れられる社会になりつつある。

 それでも、若者から見れば立派な“おっさん”である私からすれば、女装する男の考えも、男装する女の考えも想像することは困難だ。自分の中にある本当のジェンダーを満たすのとは違う、ファッションとしてのもう1つの性に若い人たちが自ら変身する理由は一体なんなのか……? 身近にそういう人がいないからかも知れないが、さすがにいい歳のおっさんでは彼らの思考に頭が追いつかない。

 それに大学生になってまで、高校のころの制服を着た自分に意味を見出す少女の考えも理解は難しい。制服なんてものは、高校卒業と共にさっさと卒業すべきもので、せいぜい男とのセックスの時に持ち出す小道具ぐらいの意識しかなかった私からすれば、制服に身を包み自分の価値を再確認する少女の気持ちは計り知れないものがある。

 しかし、そんな私も本書を見たおかげで、そんな「今どきの若い人」の考えが少しはわかるようになった。未だに若者たちの自由なジェンダーの振る舞いには、面食らい、戸惑ってしまうが、本書を読んだことによって見聞が広がったのは事実だ。

 果たして、他人から期待される性に翻弄され続ける彼らは、自らの性を受け入れ「自分らしいジェンダー」を手に入れていくのか。正解のない問いに彼らがどのような解答を導き出すのか。その答えが気になる方はぜひ本書『ヒメゴト~十九歳の制服~』を手にとって、自らの性に悩む彼女らと共に、複雑な現代の“性”に対するあなたなりの答えを見つけてみてはどうだろう。

文=山本浩輔