幸せまでは近くて遠い? 環状8号線沿いに住む6人の女性の恋物語

文芸・カルチャー

2015/12/26


『感情8号線』(畑野智美/祥伝社)

学校を卒業し、仕事や恋愛など、人生の様々な分岐点に問答無用で次々と立たされ、何かと悩みが増えるのは、女性の場合、20代半ばくらいからではないだろうか。

周囲の状況が大きく変わり始めるのはもちろん、外見も、お金と時間をかけないと、目に見えて劣化していく。焦燥感に襲われたり、取り残されたような気持ちになったり、心も身体も何かと忙しい。

畑野智美の連作短編集『感情8号線』(祥伝社)は、東京・環状8号線沿いの街に暮らす、20代、30代の6人の女性の恋模様と日常が、様々な角度から描かれている。

荻窪、八幡山、千歳船橋、二子玉川、上野毛、田園調布、この6つの駅それぞれを中心とする街は、全て環状8号線沿いにある。直線距離で行くと近い街だが、一本の電車で行き来できるのは二子玉川と上野毛だけで、他は新宿や渋谷で乗換えなければならない。電車で行くと、周り道をしなければならないのだ。また、同じ道沿いにあるけれど、北と南では生活レベルも全然違うのだという。

「近くて遠い街」でもある環状8号線沿いと同じように、本書に登場する女性たちは、様々な悩みを抱えていた。

物語は、荻窪在住の真希の話からスタートする。女優を目指す劇団員の真希は、地元の静岡の大学を卒業して東京に出てきた23歳。餃子屋でアルバイトしながら演劇をしているが、劇団の方は上手くいっていない。同じ餃子屋で働く劇団員の貫(かん)ちゃんに片思いをしているが、彼には結婚を考えている彼女がいて、想いは叶わぬまま……。

しかも、追い討ちをかけるように、田園調布に住むお金持ちのお嬢様で、今まで一度も働いたことがない麻夕が、貫ちゃんの舞台を見て、恋をしてしまい、餃子屋でバイトを始めてしまった。餃子屋に「異物」が入り込んでしまい、真希は惨めな日々を送っている。

二子玉川の高級マンションに暮らす、真希のいとこである33歳の芙美(ふみ)も悩んでいた。子供が2人いて、周囲からは何の不満も無いように思われていたが、人知れず夫の浮気に苦しんでいた。

その浮気相手である、上野毛に暮らす29歳の里奈。彼女もまた、頭を抱えていた。美人で仕事も順調だが、なぜか恋愛だけが空回りしてしまい、心の中は、雑誌に書いてあるようなアラサー女子のベタな悩みでいっぱいだったのである。

「このまま一生一人だったらと考えると、不安で吐きそうになる」

そんな焦燥感に苛まれながらも、寂しさに耐え切れず、不毛な恋愛を繰り返していた。

登場する6人の女性たちは皆、「わたし、どこで間違えたんだろう」と悩み、時にひどく傷つきながら、毎日を過ごしていた。本書は、6つの連作短編で構成されているが、ほとんどの話が、希望のある終わり方をしない。先を想像すると、ゾッとするような、不穏な終わり方をする話さえあった。

しかし、この記事を執筆しているアラサーの筆者は、読後、ボロボロ泣いてしまうほど、彼女たちに励まされた。女性の20~30代は、確かにめちゃくちゃしんどいのだ。結婚しても、しなくても、キャリア志向であっても、優しい彼がいても、実家がお金持ちでも、不安は尽きることがないし、上手くいかないことは本当に多い。

「幸せになりたい」。ただそれだけのことが、たとえ誰であっても、決して簡単ではないことを、彼女たちは教えてくれた。誰かに嫉妬しても、その誰かだって、きっと悩みはあるのだろう。

結局私たちは、自分の選んだ道を、精一杯楽しむ努力をしながら、覚悟を決めて生き抜くことしかできないのだと思う。その道は、決して平坦ではない。だけど、迷い悩み傷ついているのは決して自分だけではないのだから、顔を上げて頑張ろう。……そんなふうに、力強く励ましてくれる1冊である。

文=さゆ