缶詰は立派な料理の味方? 独身男性に缶たん料理のススメ

食・料理

公開日:2015/12/27


『安い! 早い! だけどとてつもなく旨い! 缶たん料理100』(黒川勇人/講談社)

 夜中にお腹がすいて、冷蔵庫の中を見たらすぐに食べられるようなものがない。しょうがなく、流しの上の戸棚を開けたら缶詰があった。ふつうなら、しぶしぶ缶詰を手に取り「なんだ、缶詰か」と空腹を満たそうとするだろうが、今回ご紹介する『安い! 早い! だけどとてつもなく旨い! 缶たん料理100』(黒川勇人/講談社)を読めば「やった缶詰だ! 何を作ろうかな」に考え方が変わるだろう。

 コンビニやスーパーに行けば必ず売られている缶詰だが、ほとんどの人は缶詰をそのまま食べている。せいぜい缶詰を料理すると言ってもシーチキンぐらいのもので、その調理法だってマヨネーズと混ぜるだけだったり、サラダといっしょにあえるだけだったり、缶詰が晩ごはんの“主役”になることは、まずない。

 少なくとも、私が食べ盛りの中学生だったころに、母から「今晩のオカズは缶詰よ」と言われたら「手抜きかよ……」と落胆していたに違いない。さて、そんな可哀想な扱いを受けている缶詰だが、ちょっとアレンジしただけで、立派な“ご馳走”に変身させることができるってご存じだっただろうか?

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 なんたって本書の著者はあの缶詰博士こと黒川勇人なのだから、コレはもうウマい缶詰のレシピを期待するなという方が難しいというものだろう。実際、本書に登場する“缶たん料理”の数々はどれもウマそうで、本書の写真だけを見たら、とてもじゃないが缶詰を使った料理とは思えない出来栄えだ。

 しかも、缶詰博士が推薦する缶詰レシピだけあって、使う缶詰もそんじょそこらのスーパーで売っているお馴染みの缶詰ばかりではない。マイナーというべきか、マニアックというべきか、どこに売っているかすら分からないようなブランドものの缶詰を使ったレシピも紹介している。缶詰を使った料理も美味しそうなのだが、まず調理される前のその缶詰が食べたくなってしまうほど、食材となる缶詰が、これまたウマそうなのだ。

 なんとなく缶詰博士の思惑にハマっている気がして、気に食わないが、本書を購入してしまった私は紹介されている缶たん料理を作らずにはいられなかった!

 まず作ったのはコンビニなどで売られている燻製された鯖を使った「缶つまSmokeさば」を大胆にもお茶漬けにアレンジした「燻製さば茶漬け」だ。「燻製とお茶漬けなんてウマいのか?」と恐る恐る食べてみたが、燻製の独特な風味がさらさらとしたご飯と相まって、上品なお茶漬けとしてあっと言う間に完食してしまった。本書のレシピどおり、ご飯の上に缶詰をのっけて、ほうじ茶をかけただけで“缶成”というシンプルなレシピだったが、これがお手軽なくせして、中々どうしてウマかった。

 さらに台所の戸棚の奥に入れっぱなしになっていた焼き鳥缶に、レモンと少々のスパイスを加えただけの「コールドチキン」も作ってみたのだが、さわやかなレモンとスパイスの香りがただの焼き鳥缶をアジアンテイストな、立派なご馳走に進化させた。

 今まで「たかが缶詰」と侮っていただけに、今回の缶たん料理を知って、もう缶詰の奥深い世界から抜けだせなくなってしまった。それほどにまで、本書は衝撃的だった!

 きっと缶詰博士の思う壺なのだろうが、ここまで来たら毒を食らわば皿まで、缶詰を開ければ缶まで食べ尽くさなければ気が済まない。これまで缶詰というモノを、知らなかったことがこんなにも損なことだったとは……。

 私のように缶詰のことを“非常食”ぐらいにしか考えていなかった人は、本書を読んで缶詰に対する考えを改めていただきたい。そう、缶詰は非常食やただのツマミを超えて、立派なオカズになりうるポテンシャルを持った料理の味方なのだから! いつになく熱っぽく語ってしまったが、本書はツマミに悩む酒好きの独身サラリーマンから、夕食のオカズに翻弄される主婦の方まで、幅広い方にオススメしたい1冊になっている。思いもよらなかった缶たん料理の数々は、新たに缶詰を買い足して缶たん料理を作りたくなってしまうほど魅力的なモノばかりである。

 何かと外食やコンビニ飯ばかりになりやすい、独身男性にとって本書は、特に購入してほしい1冊だ。

 あなたの台所の隅っこで熟成されている缶詰を、そのまま放っておくのはもったいない。ぜひ、この『安い! 早い! だけどとてつもなく旨い! 缶たん料理100』を読んで缶詰をご馳走に変えてみてはいかがだろうか?

文=山本浩輔