『セカチュー』『キミスイ』の次にくる!注目の恋愛小説とは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16

誰の心にものこる、初恋の淡い記憶。世界がすべて輝いて見えて、なにもかもうまくいきそうな気がして、心が空高く飛んでいきそうになるあの感覚。

そんな初恋のきらめきを描いているのが、『僕は何度でも、きみに初めての恋をする。』(沖田 円)。本書は、スターツ出版が手掛ける「スターツ出版文庫」の第1弾。同レーベルでは、小説投稿サイト「野いちご」で連載されていた作品を中心に、“ライト文芸” シリーズが今後も発行される予定。本作はその幕開けにふさわしく、軽やかで詩のように美しい文章で、淡い恋模様が綴られている。

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物語の主人公は、高校生になったばかりのセイ。両親の不仲に悩んで誰も信じられない日々を過ごし、学校にもあまり馴染めずにいた。ある日、学校帰りにふらりと立ち寄った公園で、不思議な雰囲気を放つ少年・ハナに写真を撮られる。「目に映る綺麗なものを覚えておきたい」と話すハナは、子どもっぽく無邪気に笑うけど、透きとおるように美しい横顔がすこしさみしそうで……。

ハナに心惹かれるセイは、その日から毎日のように彼に会いに行くが、次第にハナが写真を撮る理由に気づいていく。実はハナは、事故により記憶が1日しか持たない病気を抱えていたのだった。

自身の境遇を嘆くこともなく、ありったけの優しさでセイの心を解きほぐすハナ。そんな彼のために何ができるだろう――。はじめて誰かのために生きたいと思ったセイは、少しずつ前向きな気持ちを取り戻す。また、変化があったのはセイだけではない。1日しか記憶が残らないはずのハナも、セイとの時間はところどころ覚えていたのだ。それは、ハナにとってセイが特別な存在だった証。孤独に生きていた2人が久しぶりに触れた愛情は、かけがえのないあたたかなものだった。

物語が後半に進むにつれて、セイは自身が抱える本質的な問題に向き合うこととなる。それは、不仲な両親と本音でぶつかること。恋する気持ちが勇気を授け、今まで逃げていたことに立ち向かう力が生まれた。不器用だけどがむしゃらなセイの姿は、恋愛や家族との問題に悩んだ日々を過ごした人こそ強い共感を覚えるはず。

みずみずしい恋愛ストーリーにときめきながら、漂う切なさに涙してしまう本作。特に、ラスト20ページから加速する展開には、胸の高鳴りが止まらなくなる。目の前にその人がいてくれるという幸せを存分に感じているから、セイもハナも笑顔でいられる。そんな2人の結末とは? 恋する気持ちを忘れてしまった大人にもおすすめの一冊だ。

文=松本まりあ