第3回ダ・ヴィンチ「本の物語」大賞 結果発表

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16


第2回大賞受賞作品『神さまのいる書店 まほろばの夏』(三萩せんや)

「本にまつわる物語」を募集している新人文学賞、第3回ダ・ヴィンチ「本の物語」大賞には、205作品の応募がありました。3次選考を経て、最終候補に残ったのは4作品。読者審査員および書店員審査員130名、そして弊誌編集スタッフによる選考を経た結果、以下のような結果となりました。

 <大賞>
受賞作なし
<最終候補作品>
『When the ship comes in』相川英輔
『骨つつじのこと』佐々木タマミ
『グレーバードの虹色の朝』鳴瀬ツグミ
『8月3日に会いに行く』真之あんじ
(※著者名五十音順)

第3回を迎えたダ・ヴィンチ「本の物語」大賞は、昨年に比べ応募数も増え、工夫の凝らされた力作も多く、読者審査員・書店員審査員のコメントや選考会も白熱したものとなりました。審査にご協力をいただいた皆さま、ありがとうございました。

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ただ大変残念なことに、今回は大賞受賞作なしという結果となりました。最終候補3作品はいずれも個性的な魅力を放つ作品でしたが、それぞれに課題を抱えており、受賞には至りませんでした。応募いただきました皆様のこれからの執筆に期待しております。今後ともダ・ヴィンチをよろしくお願い申し上げます。

『When the ship comes in』あらすじ&審査員講評抜粋

老作家・市井登は、突如若者二人組に拉致され、過疎の島に運ばれてしまう。首謀者のねらいは、市井をゴーストライターに立て、その島をテーマにした小説を書かせて文学賞を受賞し、島の活性化を図ることだった――。

●島おこしの小説を書かせるために誘拐される、というのが面白い。緊迫感のあるシーンから始まり、主人公はいったいどうなってしまうのか、と常に先の展開を気にしながら読んだ。限界集落となった島の様子や、島の人々の言動などがリアルに感じられた。ほんのり希望を残した読後感がいい(38・女・主婦)
●これは長編で読みたい! たくさんのことをぎゅうぎゅう詰めにしているように感じて勿体ないと思いました。島の為に作家を誘拐するという無茶苦茶な発想もすごいし、初めは「えぇ!?」と思ったが、内容は面白い。島興し要素あり、ミステリー、サスペンス要素もある。突っ込みどころはありつつも、大変楽しく読みました(25・女・主婦)

『骨つつじのこと』あらすじ&審査員講評抜粋

中学2年生の周子は、ある日親戚の小学生・奈緒の面倒を見ることになった。親から凄絶な虐待を受けていた奈緒に、周子は読書と、書く喜びを教える。世間に対し孤独感を抱いていた二人は、物語を通し絆を深めていくが……?

●「役に立つことは誰かが書いてくれるんだから、わたしは誰の役にも立たないことを書きたいんです」という台詞が印象的でした。誰目線でストーリーが展開しているのかが分かりづらい場面がありましたが、虐待などの暗い背景の物語であるのに、終盤まですいすい読めました。素晴らしい牽引力でした。全体に散りばめられた独特のアイデアやユーモアには驚かされ、誤字脱字などものともしない新鮮な衝撃がありました(33・男・会社員)
●本を通じて交流した2人の少女の心情が鮮明に描かれていて惹きつけられました。物凄く暗い読み味で辛い部分もありましたが、2人の小気味良い掛け合いが物語の中で輝いていた点が印象的でした。(20・女・大学生)

『グレーバードの虹色の朝』あらすじ&審査員講評抜粋

家を空けがちな母に代わり、家事や弟の面倒を見ている中一の奈緒子。庭に飛んできた鳥にグレーバードと名を付け、創作した物語を弟に聞かせたことを母親に咎められた奈緒子は、その鳥を調べるため公園や神社に出かけはじめ――。

●本を開くと、そこに思いもよらない大パノラマがひらけており、想像の翼がひろがっていく感覚を呼び覚まされました(39・男・書店員)
●とりとめの無い日常を切り取り、その中で本という存在がどれほど私達の生活に寄り添っているか思い出させてくれる、「本の物語」大賞の趣旨を捉えた作品だと感じた。人と人との繋がり、自分とまだ知らぬ世界との繋がり、時と空間を超えた繋がり。木が枝葉を広げるように本がおし広げ、繋ぐ世界には際限が無いのだと感じさせられた。誤字脱字が多く、中盤~終盤でのストーリーの起伏の無さが少し気になったものの、読み終わった後には本棚に並ぶ本を手に取りたくなる作品であった(21・女・大学生)

『8月3日に会いに行く』あらすじ&審査員講評抜粋

地元のテレビ局に勤める隼人の元に、一通のメールが届く。その送り主は、死んだはずの親友・譲二だった。姿は享年の20歳のままの彼は、どうやら過去からやってきたらしい。時空を超えた、奇妙な共同生活がはじまる――。

●全体的に空気感が素晴らしく個人的にも非常に好み。運命の皮肉、取り返しのつかない後悔……あまりにも切なく哀しすぎるが、それもまた人生だ。設定自体は決して真新しさを感じないが、欠点を補って余りある魅力的な作品。キャラクターの良さ、劇的かつブレない展開、秀逸なラスト……卓越した才能と洗練されたセンスが感じられる印象深い作品(46・男・書店員)
●出だしから「そう簡単には泣かないぞ!」と心して読んだ。しかし終盤、まんまと泣いてしまった……。しかし、いつかどこかで読んだことがあるような気がして、新鮮味はあまり感じられなかったことと、「本の物語」要素がどうしても薄い気がしてしまったことが残念でした(46・女・主婦)