涙で患者は救えない! 現役看護師が描く『リヒト』最新巻の泣きドコロは?

マンガ

公開日:2015/12/30


『リヒト 光の癒術師-ハイレン』(明/小学館クリエイティブ/エッジスタコミックス )

 命を救う――。この崇高な行いを描いた作品として話題を集めている、『リヒト 光の癒術師-ハイレン』(明/小学館クリエイティブ/エッジスタコミックス )。傷ついた人々を救う「癒者」を目指し、日々奮闘している主人公・ティナを中心に、「命とはなにか」を問いかけるファンタジーマンガだ。このたび、その話題作の第2巻が発売された。

 ティナは、癒者のなかでも最高位である「ナイチンゲール」になることを夢見ている少女。けれど、なんとか癒者見習いになることはできたものの、どこか抜けているティナにとって、その道のりは果てしなく遠い。いまはまだ、マルケやアルベルトなど同じ志を持つ仲間たちと、失敗を繰り返しながら勉学に励む毎日だ。

 このたび発売された第2巻では、医療の現実と向き合うティナたちの姿が描かれている。なかでも印象的なのが、ティナと患者・ジルバの関係だ。

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 心筋梗塞を発症してしまったジルバは、一命を取り留めたものの、意識不明のまま寝たきりの状態になっている。師長の診断によれば、「意識が戻らないのは一時的。ただし、心不全を繰り返していたのは事実。心の準備をする必要がある」とのこと。

 その結果に、ティナは思わず泣いてしまう。3歳になる孫の誕生日がお祝いしたいって言っていたのに、どうして――。

 残酷な言い方かもしれないが、医療の現場に従事する者は、人の生死にいちいち動揺していたら仕事にならないだろう。どんな場面でも冷静な対応が求められるし、過度な感情移入は致命的なミスを誘発するかもしれない。感情を表に出さず、最善の処置を施すのが、彼らの仕事なのだ。

 だからこそ、ティナのように感情を露わにすれば、先輩たちから怒られることになる。「泣いている暇があれば、患者に声をかけてやれ」と。先輩癒者たちはみんな、涙なんかで人は救えないことを知っているのだ。それを知り、涙を拭うティナ。彼女が選択したのは、自分にできることを精一杯する、ということ。見習いで未熟なティナにできること、それは「毎日話しかける」という些細なことだが、それでも彼女はジルバを思い、ひたすら話しかけ続ける。

 やがて、ジルバは意識を取り戻す。そのワンシーンの尊さたるや…。ティナに感情移入している読者ならば、きっと、いや、必ず涙腺が崩壊してしまうはずだ。本作の作者は、現役の看護師。命を救う者の葛藤、病に倒れる患者たちの苦しみ、このあたりの描写がとてもリアルなのも納得だろう。

 そして、第2巻のラストでは、ティナたちが薬の原料となる「シャガラ石」の採石に向かう途中で起こった事故が描かれる。そこでとある人物が重傷を負ってしまい…。現場にいるのは癒者見習いのみ。果たして、ティナたちは彼を救えるのか。

 文句なしの感動ファンタジー、『リヒト 光の癒術師-ハイレン』。夢を持ち、一歩ずつ前進していくティナとともに「命の尊さ」ととことん向き合ってみてはいかがだろうか?

文=前田レゴ

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