大人気ケンカップルが3年ぶりに登場! 『飴色パラドックス』最新刊!

BL

更新日:2016/3/14


『飴色パラドックス』3巻(夏目イサク/新書館)

 ケンカップルという言葉をみなさんはご存じだろうか?

 ケンカップルとは、BL界でよく見受けられる「ケンカばっかりしているのに、お互い好き同士のカップル」のことだ。萌えるポイントは「お互い好きなのに、なぜかケンカばっかり」というところだろう。

 そんなケンカップルとして、BL界では一、二を争う有名作、『飴色パラドックス』(夏目イサク/新書館)の最新刊が、3年ぶりに発売された。

advertisement

 舞台は出版社。芸能人や政治家のスクープを掲載する写真週刊誌『DASH』編集部で、記者として働く尾上聡(おのえさとし)は、正義感が強くお人好しな性格。そんな彼とコンビを組み、あるスクープを追うことになったのがカメラ担当の蕪木元治(かぶらぎもとはる)。

 二人は元々、水と油のように性格が合わなかった。真面目で素直な尾上は、結果至上主義で、スクープを得るためなら手段を問わない蕪木のやり方に反感を抱き、最初は何かと衝突ばかり。

 だが、徐々に蕪木の不器用な優しさに気づき、また蕪木は尾上の「ウソをつかない」まっすぐなところに惹かれ、二人は付き合うようになる。

 それから、およそ一年。

 相変わらずケンカばかりだが、良好に思えた二人の関係に、とある魔の手が忍び寄る。それが最新刊3巻の内容だ。

 編集部に中途採用として、笠井(かさい)という若い青年が入社してくる。最初は後輩が出来たことを喜んでいた尾上だが、笠井はどうも尾上をライバル視している様子だ。他社で記者の仕事をしている時、何度も尾上にスクープを先に奪われてしまい、悔しい思いをしたのだとか。

 しかし、尾上のスクープ獲得率の高さの真相が、尾上一人の力ではなく、カメラマンの蕪木にあると気づくなり、「蕪木さん、もらいますね」と驚きの宣言をされてしまう。

 困惑する尾上に、蕪木も気づき出すが……、というのがおおまかなあらすじだ。

 本作の見どころの一つは、尾上の「読んでいるこっちが恥ずかしくなるほどの素直さ」だろう。人を疑ったり、ウソを吐いたりしない尾上はいつでも一生懸命。挑発されれば、すぐ乗ってしまうし、ライバルには闘志をむき出しにする。一方で自分が悪いと思った時には素直に謝り、人のことをしっかり褒めることも出来るのだ。

 今回も、自分が追っているスクープの裏付けが中々取れないのを悩んでいたことを利用され、笠井に嘘の情報をつかまされた後も、笠井が抱えていた苦悩を知るなり、「お前すげーな」と素直に相手を認めることも出来る。蕪木の前で、いつもは男らしく強がっている尾上が、急にデレる瞬間も見逃せない。

 そんな尾上のことを、何事に対しても執着心の薄い(ように見えるだけかもしれないが)蕪木は好きになった。

 この好きになった理由も、本書が長年愛される一因だと思う。

 BL界では当然のように男同士が恋愛関係になる。しかし、その理由が納得いかない物語も多い。「見ためが好みだから」「ゲイだから」という理由で、男同士の恋愛を読んでも大して面白くないのだ。

 好きになった理由は、相手の性格。自分にはない部分をお互い持っているから。男女の恋愛では、どうしても打算的な要素が垣間見える瞬間がある(例えば収入とか、学歴とか、見ためも大きな要因になるだろう)。

 そういった恋愛のリアリティを一切なくし、純粋に相手の「中身」で恋愛関係が成り立っているところに、本書が支持されるゆえんがあると思う。

 そして「ケンカばっかりなのに、お互いを認め合っている」「ライバルでありながら、恋人」という関係に胸キュンしている方も多いのではないだろうか。

 「ケンカップル」が好きで、ほのぼのラブコメを読みたい方は、ぜひとも読んでみてほしい一冊だ。

文=雨野裾