「なんて不謹慎な小説!」と宮部みゆきがイチオシ! “復讐”をモットーとする危ない女子高生の痛快青春ミステリー

文芸・カルチャー

2016/1/25

 生きるのも死ぬのも、人を殺すのも、つきつめていけば、すべて、「自分のことが好きだから」成し得ることではないか。結局、すべて自己満足。だが、それはどれほど儚く危ういものだろう。自分自身だけがよりどころなんて寂しい気がするからこそ、人はみなそれを巧妙に隠す。自分の欲求など隠して「他がため」と叫ぶのが、世間体。それが当たり前の世の中だからこそ、第28回小説すばる新人賞に選ばれたこの作品には他に類を見ない痛快さがある。

 その小説の名は、渡辺優著『ラメルノエリキサ』(集英社)。すばる文学賞選考委員の宮部みゆき氏が「なんて不謹慎な小説!」と選考会でイチオシしたという痛快青春ミステリーだ。やられたら絶対にやり返す“復讐”をモットーに生きる女子高生が疾走するこの物語は、まるで犯罪者の手記のよう。復讐への誓い。母への歪んだ思いと、姉への思い。そして、自己愛…。主人公は、殺伐とした思いを抱えながら、自分のよりどころを見つけようと必死であがいている。

 女子高生・小峰りなは、幼い頃から、どんなささいな不愉快事でも必ず復讐でケリをつけてきた。6歳の時は、飼い猫の腕を折られた復讐として、7歳の女の子の腕を折ったし、最近では、彼氏が浮気していることが発覚すると、浮気相手とのエロスなやりとりをせっせとスクリーンショットに撮り集めては、クラスメイトにバラまいたりした。そんな彼女はある日、夜道で何者かにナイフで切りつけられるという事件にみまわれる。犯人の手がかりとなるのは、「ラメルノエリキサ」という謎の言葉。復讐に燃えるりなは、その言葉だけを頼りに事件の真相に迫ろうとする。

 りなは、復讐に取り憑かれているといっても過言ではない。異常なまでの執念に、りなの姉は、りなが犯人を殺してしまうのではないかと恐れ、彼女を必死で諌めようとするが、その勢いは止まらない。「ラメルノエリキサ」の意味を探るにつれ、りなは「ラ・メール」がフランス語で「母」という意味だということを知り、りなはコンプレックスのうえに成り立った「マザコン」である自分自身と母親との関係に思い至る。果たして、この事件にりなの母親は関係しているのか。りなはクライマックス、犯人とどのように対峙するのだろうか。

「ママのために私を切りつけた犯人を私が殺す。それってとっても、なんだろう、流れとして美しい。マザコンの呪縛すら断ち切れたりして、なんて、思っちゃったりなんかしている。ああ、殺すというのはもちろん比喩よ、お姉ちゃん」

「これまで完璧なママの完璧な娘だと信じて愛情を注いできた対象が、復讐癖と腐った根性と肥大化した自己愛を持ち合わせた、この私だったと教えてあげたい。ママの作る完璧な家族をぶち壊したい。そのときのママの顔が見たい」

 この物語は復讐という不謹慎極まりないテーマを扱いながらも、どこか高校生の女の子らしい初々しさと爽やかさがある。家族関係や周りの友人とのやりとりにリアリティがあるのも、恐ろしくも美しい。意地を張りつづけながら毎日を生きるすべての現代人に読んでほしい1冊だ。

文=アサトーミナミ