サブカルの帝王は努力家で戦略家だった! みうらじゅんの仕事術が明かされる『「ない仕事」の作り方』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16


『「ない仕事」の作り方』(みうらじゅん/文藝春秋)

 「ゆるキャラ」というネーミングとブームの生みの親であり、もらって困るお土産「いやげもの」の収集、街中の看板から般若心経の278文字を探す「アウトドア般若心経」、エロ本の写真を使って450巻以上を作ってきた「エロスクラップ」などなど……。

 この世に存在しなかったジャンルや趣味を発明し、それに熱中し、時には仕事にもしてしまうみうらじゅん。やってることの破壊的なバカバカしさのせいもあり、彼の仕事術に焦点が当たる機会は少なく、ともするとその仕事ぶりは「バカなことを仕事にできて楽しそう~」と軽く考えられがちかもしれない。

 しかし、本人がその仕事術を語った『「ない仕事」の作り方』(みうらじゅん/文藝春秋)を読むと、彼が圧倒的な努力家であり、また戦略家でもあることが分かる。しかも、その努力と戦略は、常人には簡単に真似のできないものなのだ。

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 その戦略の一つが、「好きだから買う・集めるのではなく、買って・集めて圧倒的な量が集まってきたから好きになる」というもの。時間も手間もカネも要する、力技かつ後付けの愛情強化法である。例えば天狗をマイブームにしたときは、天狗のお面を事務所の玄関に飾り、居酒屋「天狗」のオリジナルソングを聴き続け、テング印のビーフジャーキーを食べまくったという。

 コツは「これが何の役に立つのだろう」と考える暇も与えないこと。そして、「これ、つまらないんじゃ……」と思いそうになった瞬間に、「そこがいいんじゃない!」と大急ぎで全肯定し、普通の自分を否定することだそうだ。

 みうらじゅんがマイブームを語る姿を見ると、「よくぞ、こんなもののことをそこまで……」と呆れつつ笑ってしまう。しかし、誰も好きにならないものを好きになるには、超過酷な“自己洗脳”が必要だというわけなのだ。

 また、本書で自らの仕事術を「一人電通」と呼んでいるように、彼はメディアへの売り込み、接待、イベントの戦略立案なども自分で行う。その圧倒的な仕事ぶりの陰には、「面白いことが見つけられなくなったら社会からリストラされてしまうという強迫観念が常にある」「人と同じことをしていては駄目だ」という真摯さ・熱さも持っている。やはり彼の仕事は、「バカなことを仕事にできて楽しそう~」なんて軽々しく語れるものではないのだ。

 しかし、やっていることがバカで笑えることなのは間違いない。サブカルの帝王と呼ばれるようになっても、権威の付きすぎに備え、「権威・濃過ぎ(ケンイ・コスギ)」という戒めの言葉も用意するその生き様は、どこまでもバカでどこまでもカッコいい。

文=古澤誠一郎