“自炊”ブームが生んだ著作権問題とその行方

社会

公開日:2011/12/2

 昨年から、あちこちで見聞きするようになった“自炊”という言葉。

 書籍や雑誌を裁断し、スキャナを使ってデジタルデータ化する自炊が広まった背景は、iPad日本語版やアマゾンのKindleなど、電子ブックリーダーの登場&普及。そして日本語書籍の電子書籍化の遅れだ。せっかく手に入れた電子ブックリーダーで、読みたい本が読めないというジレンマから注目されるようになった。

 そして様々な便利機能を備えた個人向けスキャナなどが登場し、さらには『電子ブック自炊完全マニュアル』『「自炊」のすすめ』といったわかりやすいマニュアル本も次々と出版され、手軽に自炊できる環境が整ってきた。
 それでも“メンドくさい”という人々のニーズをとらえて登場したのが、自炊のすべての工程を1冊100円ほどでサービスする“自炊(スキャン)代行業者”だ。

 個人がみずから利用するために本を複製する行為は、著作権法で問題にはならない。しかし、自炊代行という“業態”は、「複製権」を侵害する行為であり、著作権法第30条1項の「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する場合」に該当、“私的複製”を逸脱しているとし、講談社、角川書店、集英社、小学館、光文社、新潮社、文藝春秋の7社、浅田次郎、浦沢直樹ら作家、漫画家122名が、9月上旬、急増した代行業者に対して、今後の事業の継続などについて問う質問書を送った。
 質問書が届いた87社のうち43社から回答があり、8割以上がスキャンを中止する、事業を縮小するという方針を示した。

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 ここで浮かびあがるのは、電子書籍時代が炙りだした著作権の複雑さ。文化庁では「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」が開催され、その席上で出版側は、「著作物を広く伝達するのに重要な役割を果たす者の保護」を目的とする著作隣接権を要求、デジタルでの二次利用の許諾権を求めている。
 だがもしも、それが付与されれば、権利関係が混乱し、作者が著作物を自由に二次利用できなくなるとの意見もある。電子書籍時代が生んだ新文化“自炊”とデジタル化にまつわる著作権問題は、さらに様々な展開を生んでいきそうだ。

(ダ・ヴィンチ12月号 出版ニュースクリップより)