事情を抱えずに働いている人なんていない! ダイバーシティ・コンサルタントが説く「苦労を楽しみに変える働き方」

ビジネス

2016/2/8

 かつて「3K」といえば、キツイ・汚い・危険な職場といわれ敬遠されたものだが、ダイバーシティ・コンサルタントの渥美由喜さんは自身を指して、「私なんて7Kライフですよ!」と胸を張る。7Kとは、会社員/子育て/家事/介護/看護/子ども会/変わり者/困った人、のこと。

 渥美さんは二児の子育てをし、次男が難病を患ったことからそこに看護がプラスされ、かつ老父の介護をしながら日々、仕事で飛び回っている。地域活動である子ども会の活動にも従事し、発達障害があるゆえに職場をはじめとする人間関係においてはKYな行動を取り、変わり者で困った人と思われる……。それでも、著書『長いものに巻かれるな! 苦労を楽しみに変える働き方』(文藝春秋)のタイトルにあるとおり、渥美さんの表情に苦難の色はない。いや、むしろ活き活きしている。

渥美由喜さん(以下、渥)「毎日この7Kを〈ジャグリング〉にように回してきましたが、やっているうちに慣れました。そもそも私ひとりでこれを背負いこむわけではなく、家族や地域の人たちに支えられているから実現可能なんです」

 こういわれると渥美さんがなんでも楽々こなし、周囲の協力もやすやすと取り付ける超人のようだが、決してそんなことはない。7Kとはいわないまでも、誰もが何らかの〈事情〉を抱えている。仕事のことだけを考え、時間や体力の100%をそこに注ぎ込める人はまずいない。もしいたとしたら、家族がそのしわ寄せを受けているということであり、その状態がいつまでも続く保証はまったくない。自身が病気にかかる可能性もある。しかし、そうした〈事情〉を仕事の場でオープンに話すことはあまりない。

「これくらいはたいしたことじゃない、ってヘンに卑下したり隠したりしますよね。誰だって仕事をしていくうえでネガティブな事情を抱えているけど、それを見ないふりしがちです。目を逸らすうちに、問題も大きくなる。それよりも、すべてのことをポジティブに捉えてみてはいかがでしょう。私は問題をひとり抱え込まないうえに、ネガからポジへの転換が得意というだけなんです」

 たとえば渥美さんを取り巻く環境も、「二児の育児に追われていて、父の介護があって……」といわれると重苦しいが、「7Kなんですよ!」と明るく打ち明けられれば、その印象は180度変わる。「それどころか、私はLD(学習障害)の気もあるから7LDK。豪邸ですよ~」とまでいわれると、つられて笑うしかない。本書には、「辛いは、幸いへの道しるべ」「制約社員とは、〈成〉功が〈約〉束された社員」など、ことば遊びのようでいて、発想の転換をうながすためのヒントがたくさん詰まっている。

「たいしたことないと思いこむのは、くさいものにフタをするのと同じで、何の解決にもなりません。フタを開けてクンクンにおいを嗅いで、問題の温床があったらそれを断つ。日光にさらして消毒してもいい。そしたら、問題が腐っていくことはありません。私が『発達障害なんです』と切り出すと、『実は私も』と返されることって意外とあるんです。困っている度合いが強いほど、マイノリティほど、こちらから胸を開けば向こうも開いてくれる。私は7つの扉を持っているようなもの。共通点を見つけ合ったときは、一気に距離が縮まります」

 ネガティブな要素を打ち明けにくい裏には、日本社会が心身ともに健康で、長時間労働に耐えうる人材ばかりを求めているという現状がある。ダイバーシティ(多様な人材が活躍すること)というが、たとえば「女性である」というだけで働きづらさを強いられていると実感する人は多いだろう。

「女性こそたくさんの扉を持っているので、本来なら企業は大事にすべきなんです。生活者視点、消費者視点を大事にしている流通業のなかには、購買決定権を持つ女性客にアピールするため、2020年までに女性管理職の割合を50%にまで引き上げようとしている企業もあります。国が掲げている目標は『2020年までに30%』ですから、それよりよほど進んでいます」

 BtoCの業界ではそうした動きが見られるようになってきたものの、働く女性を取り巻く現状はやはり明るいとはいえない。しかし、女性側からのアクションよって光明が見えることもある。2015年に「マタハラ白書」の監修を行った渥美さんはその実情を踏まえて、次のように提案する。

「〈育休明け前女性セミナー〉などで耳を傾けると、『職場がワーキングマザーに対して理解がない』という女性の本音が出てきます。だったら、復帰前に一度お子さんを職場に連れていき、上司に抱っこしてもらえばいい。そう提案すると、『あの部長にウチのかわいい子を触らせるなんて!』といやがる女性もいますが(笑)、そんな上司でも人の子。『赤ん坊ってこんなに小さかったか』『首がグラグラしていて、こわいなぁ』と赤ちゃんの感覚をその腕に残しておけば、復帰後、子どもが熱を出したので早退するというときも、見知らぬ赤ちゃんではなく、自分が抱っこした◯◯ちゃん、△△くんのこととして親身になってくれる。接点を作るって、大事です。女性側からもそうしたアプローチをしてみてはいかがでしょう」

 シングルマザーについても、次のような事例を挙げる。

「ある老舗温泉旅館では、全従業員の1割、客室係でいうと3割がシングルマザーです。でも、かわいそうな人への支援だとか社会貢献だとかで採用しているわけではなく、あくまで経営戦略なんです。シングルマザーは苦労したぶんだけ人間性が豊かになっている女性が多いので、それを宿泊客への接し方や気の配り方に発揮してほしい、というのが狙いです。実際に、この旅館の顧客満足度は上がりました。子どもがいるから、シングルマザーだから、と女性を属性でくくってお荷物扱いするのではなく、その属性なりの強みを活かせば直接的、間接的にプラスになると企業はもっと気づくべきです」

 本書では、今後の社会では一人三役をこなせる人材が求められると説かれている。三役とは、〈職業人〉〈家庭人〉〈地域人〉。仕事と家庭を両立し、子どもをとおして地域とも関わっているワーキングマザーはまさにこの三役を押さえていてそれが強みとなるが、男性はどうだろう? もとより女性の社会進出は、男性の家庭進出なしにはありえないと言われている。

「その言い方をいやがる男性は多いですね。なんで妻のために俺が犠牲にならなきゃいけないの、となっちゃう。そうではなく彼らには、子育てって楽しい! と伝えるほうがいい。さらに、『いま子どもの面倒をみなかったら、将来、自分が面倒をみてもらえないぞ~』というホラーストーリーを与えると、男性も積極的に家事や育児に参加するようになります。〈イクメン〉ということばを作ったのは私ですが、ほんとうのイクメンはともかく、ただイクメンアピールする男性にはある種の鬱屈を感じます。職場で評価されないから、育児で評価されたい。だから、短期間で目に見える成果を求めて、SNSでイクメンアピして称賛の声を待つ。でも実際の子育ての評価って、そこにはありませんよね。気長に淡々と子育てをし、ある日、子どもがひと言『この家に生まれてきてよかった』といってくれれば報われるものです」

 本書でもこのインタビューでも、渥美さんの提案する働き方は女性に寄り添い、従来の男性社会的な働き方には厳しく見えるが……。

「男女共同参画について話すと、男性から『裏切り者め』といわれることがありますが、いやいやいや、私は自分のために推し進めたいんです。過去に仕事に就かず妻に養ってもらった時期がありますが、もし妻が働いていなかったらそれは不可能でした。身体や心を壊しても男性が働き続けないといけない社会は、しんどいですよね。もちろん、女性が経済力を持つことは女性自身の人生のリスクを軽減します。だから、これは妻のためでもあり、将来できるかもしれない孫娘のためでもあるんです。若い女性のなかで専業主婦志向が強まっているといいますが、これは女性が働く現実に明るい希望を見出せなくて、現実逃避しているだけ。僕のような7Kライフの人間も、女性も、さらには心身に疾患を持った人やLGBTの人、みんなが働いて自立する社会であるためには、これまで男性社会で良しとされてきた『長いものには巻かれる』精神がいちばんの弊害となります。こうした職場風土のおかしなところに、私はこれからもメスを入れ続けていきたいと思います」

取材・文=三浦ゆえ