昭和20年の東京の怪奇に挑む、異色の紙芝居屋コンビ! 「不思議問題解決承リマス」

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16


『S20/戦後トウキョウ退魔録』(伊藤ヒロ、峰守ひろかず/KADOKAWA)

“格好いい大人の生き様”を唯一のテーマ・矜持とし、大人になった読者に、熱い物語を届けるべく創刊された“ノベルゼロ”。今回紹介するのは、『S20/戦後トウキョウ退魔録』(伊藤ヒロ、峰守ひろかず/KADOKAWA)だ。

時は昭和20年。戦後の東京は亀戸に、襟之井紙芝居製作処という小さな店があった。そこには二人組の風変わりな紙芝居師がいた。話作りを担う茶楽呆吉郎は、岩のように武骨で強面で“その筋の人の者にしか見えない”が、人情家で惚れっぽい気のいい男だ。一方、絵を描く襟之井刀次は、見目麗しい白髪の美青年。女性人気も高く、人並み外れた知力を誇るが、“武士道”を地でゆく堅物で、社会性に欠ける。性格も志向も正反対の2人は、けれど互いの腕前を認め合い、同居人の少女・摩姫を緩衝材に、日々、紙芝居製作に明け暮れていた。

そんな紙芝居屋に寄せられるのは、紙芝居製作の依頼だけではない。看板の脇に控えめに書かれた「紙芝居作成並ビニ不思議問題解決相談承リマス」。もともとは「話づくりのネタを聞けりゃいい」と呆吉郎が記したものだが、そうは問屋が降ろさない。

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2人の元に持ち込まれる依頼や、巻き込まれる出来事の先には、とんでもない「不思議」が待っていた。猟奇事件や国家的陰謀、超自然的な怪奇現象――街の紙芝居屋には重過ぎる数々の大事件に、けれど2人は平然と立ち向かってゆく。

2人の武器は、それぞれの体に秘められた特別な力。戦地の原住民に書けられた呪いによって“不死の体”を持つ呆吉郎。ある組織によって作られた金属製の特殊な義手と類まれなる剣技を繰り出す刀次。知恵と機転で絶体絶命のピンチを引っくり返し、勝機を見出す2人の心には、決して諦めない強い心が燃えている。

激しい戦いの先に明かされるのは、日本を震撼させ、世界を揺るがす真相だが――とある“仕掛け”によって、事件の記憶は人々から吸い上げられ、空に散るために、呆吉郎と刀次の活躍も衝撃の事実も明るみには出ない。

だが、この世界から完全に記憶が消去されるわけではなく、時間を経て、地上に降ってきてしまう。ゆえに、それを「浴びた人が思い出すことがあるのだが、その後の世界で、物語や映画になったり、各界の著名人となったり、歴史的事件とつながったり、という仕掛けが、それぞれのエピソードに施されている。

正太、ジュンイチ、セイさんといった登場人物の名前や、秘密兵器の操縦方法やカッパの台詞、カルト教団の歌(個人的にはこの歌はかなりテクニカルでツボだった!)、ヴォイニッチ写本やロズウェル事件、下山事件といった実在の事件との掛け合わせなど、散りばめられたヒントから、各エピソードを読み解くのも実に楽しい。

また、本作は、主人公の2人の視点(一人称)で各エピソードが綴られており、刀次を伊藤ヒロ氏が、呆吉郎を峰守ひろかず氏が担当して書いていることにも注目したい。

一人称で描かれるそれぞれのキャラクターの心情と、相手からの見え方のギャップが、2人の著者の文体や言葉選びの微妙な差異とリンクしているようで、不思議なリアリティを生み出しているのだ。互いを認め合い、信頼関係を築いていても、相手のことを全て理解できるわけではない――そんな当たり前の空気感を醸し出すのは、案外、難しいものだ。この作品世界には、その絶妙な空気が漂っている。

戦後日本という時代背景、ニヤリとさせられる物語の仕掛け、魅力的なキャラクターと事件。次なる“不思議な依頼”が、1日も早く襟之井紙芝居処に持ち込まれることを心待ちにしている。

文=水陶マコト

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