フェミニズムやLGBTを扱う芸術は「なかったこと」に? アート界の不自由を打破する方法はあるのか

文芸・カルチャー

2016/2/12

 アートという語に自由で先進的なイメージを持つことは少なくないでしょう。しかし、人間が創りだすものであるからには、そこには実社会と同じく、差別や偏見といったマイナス面も存在します。それが顕著に現れているのが、マイノリティがマイノリティの自身として表現する、あるいはマイノリティをテーマに表現する「マイノリティアート」。美術史の表舞台で語られず、正当に評価もされずにいることに強い危惧を抱き、アクションを起こすトークイベント「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー」が2月19、20、21、27、28日の日程で開催されます。

主催は、自身も彫刻を中心とした現代美術作家として活躍する柴田英里さん。マイノリティアートのなかでも、特に女性やLGBTに向けられた差別や偏見について、アート作品のみならず、文章でも発信を続けています。

柴田英里さん(以下、柴田)「私が表現しているのは、フェミニズムアート、クィアアートと呼ばれるものです。クィア(queer)とは本来は、奇妙な、という意味ですが、現在はLGBT以外も含むセクシャルマイノリティ全般を扱う学問の名称として使われています。アカデミックな世界ではフェミニズムもクィアもその歴史や現状が学ばれていますが、アートの世界では、存在そのものに光が当たることがありません」

その理由を、柴田さんはアート界の構造にあると見ています。アートの歴史は洋の東西を問わず、男性、なかでもヘテロ(異性愛者)を中心として積み重ねられてきました。表現する男性と、表現される女性。女性の芸術家というのは圧倒的少数で、画家の娘に生まれるなど特殊な環境にある人を除いては望むべくもないものでした。

柴田「ところがいま現在の美大では、科にもよりますが女性7:男性3ぐらいの比率で女性が多いのです。芸術家というのは“食っていけない”と見なされがちなので、厳しい経済状況が続くとどうしても男性が減ります。けれど、教員の男女比を見ると男性7:女性3以上。女性でアートを志す人が増えたところで、それを評価するのはヘテロの男性となるわけです。そこにフェミニズムやクィアの要素があっても彼らの理解が追いつかず、結果、評価に値するものとは見なされずに、芽が摘まれてしまいます。または、それでも評価を得たいあまり教員におもねる表現になったり、不適切な関係を強要されるアカデミック・ハラスメントを招いたり……。芸術というと自由に表現していくものというイメージをお持ちの方も多いですが、現実にはその大学に入ることで将来のコースもある程度決まってしまうため、こうした事態に陥りやすいのです」

しかしこれは美大にかぎった話ではない、と柴田さんは続けます。

柴田「美術展を開催するにしても、美術館側にアンチフェミニズム、アンチクィアの視点が強いケースもあります。学芸員が評価しているにもかかわらず、スポンサーの意向でマイノリティアートの作品が排除されることも。そうすると、フェミニズムアートやクィアアートをやっていても、なんのプラスにもならないと考えるのは、残念なことですが自然の流れです」

では現在、フェミニズムやクィアを表すアートがまったくないのでしょうか?

柴田「活躍されているアーティストのなかにも、メタファー(暗喩)としてその要素を打ち出している方は少なからずいらっしゃいますが、明文化するのは避ける傾向があります。先ほどお話した〈評価されない〉という事態を避ける意味もありますが、ひとつの作品にいろんなモチーフを託している場合、フェミニズムやクィアの側面からしか語られないのは避けたいところです。ただ、フェミニズムアートやクィアアートが表に出てこない、表に出るときは暗喩の形をとる、という現状では、これらのアートが体系化されることもなければ、歴史として次の世代に受け継がれることもないのが問題です」

それこそが、柴田英里さんが今回のトークトイベントを開催する狙いです。

柴田「歴史として残していかないと、このアートを志した人はすべてイチから勉強することになります。それはそれで意義のあることでしょうが、その問題意識は共有されないし、美術史のなかでは〈ないもの〉とされます。この状況を改善したいという想いで、イベント開催を決めました。SNSが生活のなかに入りこんでいるいま、“コミュ力至上主義”となり、共感と協調性を発揮しながら人とつながることがよしとされています。すると、マイノリティはますます排除される流れになるので、いまこそマイノリティアートを考えるときだと感じています」

トークイベントでは、ろくでなし子(アーティスト・漫画家)さんをはじめとするアーティストから、批評家、哲学家、ジェンダー研究者など多彩な顔ぶれが日替わりで登場し、それぞれの視点からマイノリティアートを語り尽くします。

柴田「アート界における、マイノリティ差別の問題改善に向けて思考する場を作り、その記録をアーカイヴ化して受け継いでいくのが目的です。この問題を多角的に見るために、“表現の境界線上にいる”“オールラウンドプレイヤー”という2点を基準として、ゲストの方々にお声がけしました。芸術にとどまらず幅広い知識をもとに、あるいは現代史とアート、ロボット工学とアートなどの境界線上にある視点から、この問題を考えていきたいです。アート界の王道にいる人たちとは別の考え方を提示してくれるに違いありません。学生のみなさんにもぜひ来ていただきたいですね、学割を用意していますよ!」

追加企画として、作家の中村うさぎさん、タレント・作家として活躍する牧村朝子さん、そして柴田英里さん自身による鼎談企画「『女は子供を産まなければ一人前と扱われないのか?』……自分だけの部屋、女・仕事・死」(http://peatix.com/event/147244/view)も発表されました。女性、セクシャルマイノリティに向けられたものにかぎらず、すべての差別、偏見について考えるヒントが満載のイベントとして注目必至です。

取材=村上朋子

▼「マイノリティー・アートポリティクス・アカデミー」の詳細は、
http://camp-fire.jp/projects/view/3955
前売り券は、
http://mapa.peatix.com/
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