気が付いたら見知らぬ土地! 記憶もない!? ちょっと新しい異世界転移系アニメ!

マンガ

公開日:2016/2/17


『灰と幻想のグリムガル』(十文字 青/オーバーラップ)

 近年、『ソードアート・オンライン』や『ログホライズン』『オーバーロード』など、ゲーム世界を舞台にした作品が次々と人気を得ている。ゲームが好きな人にとって、ゲーム内のファンタジーな世界は憧れの空間だ。「もしゲームの世界に迷い込んだら、自分ならどうするだろう?」と、一度は妄想したことがあるだろう。2016年冬アニメとして人気を誇っている『灰と幻想のグリムガル』も、そんな異世界に行ってしまう系の1つだ。

 本作は、オーバーラップ文庫の『灰と幻想のグリムガル』(十文字 青/オーバーラップ)が原作となっている。このジャンルの作品は人気がある半面、ネット上では「またこれ系か」「どんだけ現実逃避したいんだよ」との声も上がっているが、ちょっと待ってほしい。この『灰と幻想のグリムガル』は、他の作品とはちょっと違う。

 まず、主人公・ハルヒロ含む迷い込んだキャラクターたちがことごとく記憶喪失、というのが新しい。今までのこういった作品は、自分がやっていたゲーム世界に入り込んでしまう、というのが定番だった。しかし本作品は、気が付くと見知らぬ土地にいて、そこがどこなのかも、自分がどこから来たのかも分からない、というところからスタートする。

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 しかし彼らは、明らかにどこか別の世界から来ている。「月は赤くなかった」ということだけは分かったり、「ケータイって何だっけ?」「ゲームってどういう……」と、前の世界の記憶はないのに、ふと口に出てしまい戸惑ったりする。だが、記憶を手繰ろうとすると、霧散するかの如く消えていってしまう。

 そしてもう1つは、主人公チームがとても弱い、ということ。ゲームの敵キャラとして序盤で登場する、おなじみの初心者向けモンスター「ゴブリン」。このグリムガルの世界でも、一番弱いモンスターだ。しかしハルヒロたちにとっては、ゴブリンでさえ強敵。パーティー全員で命がけで挑む姿が描かれている。他作品だと、ゲームらしく空中に便利なパネルが出てきたり、主人公の所持アイテムやスキルが豪華だったりするのだが、そういったものも一切なしだ。魔法も戦闘能力も、全てにおいて初心者レベル。そのため派手な戦闘シーンを見慣れている人にとっては歯がゆさを感じるかもしれないが、実際に突然モンスターと戦うことになったらこんな感じなんだろうなあ、という生々しさがある。

 そう、この『灰と幻想のグリムガル』からは、今までの同ジャンルものにはなかった“生身の人間らしさ”がひしひしと伝わってくるのだ。RPGものの醍醐味でもあるキャラクターたちの成長過程、スキルアップ過程を大事にしている本作品は、ファンタジー好きにはたまらない一作だろう。ハルヒロたちは、これからどのようにして一人前の義勇兵団になり、どのようにして成長していくのだろうか。今後の展開が楽しみだ。

文=月乃雫