人口減少社会でゼロ成長経済を考える

経済

公開日:2016/2/22


『移行期的混乱(ちくま文庫)』(平川克美/筑摩書房)

 新年早々、株価は下落を続け、日経平均株価は1月21日、終値で1万6017円を記録。2015年の1月5日、始値が1万7325円だったことを考えると、昨年1年分の上昇分がすでに打ち消された格好となる。

 もちろん、株価というのは上下動を繰り返すものであり、上がる時もあれば下がる時もある。2015年6月24日には2万952円と2万円を突破したのだから(これは2000年以来15年ぶり)、これだけで日本経済、ひいては世界経済の先行きを不安視するのは間違いかもしれない。上下動を続けながらも右肩上がりの成長を続けていくのが、資本主義社会でのあるべき姿なのだから、目の前の値動きに一喜一憂する必要はない、という人もいるだろう。

 だが、本当にそうだろうか? と疑問を投げかけているのが、今回紹介する『移行期的混乱(ちくま文庫)』(平川克美/筑摩書房)である。とはいっても、これは投資に関する本ではない。経済には関係しているけれど、1、2年いや5年といった短中期的なスパンではなく、長期的な視野に立った一冊だ。

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 著者、平川克美氏が着目するのは、人口動態。日本の人口は2008年の1億2808万人をピークに、減少に転じている。2048年には9913万人と1億人を割り込み、2060年には8674万人まで減少すると見込まれている。このような急激な人口減少社会は、有史以来初めてのことだ、という。

 人口が減少すれば消費も減る。消費が減れば当然経済成長も鈍化する。今後、日本の経済は人口減少に合わせて縮小していくのが、自然な姿ではないか、というのが本書の論旨。経済が成長していくのを前提とした国家戦略や将来を語るのはやめにして、ゼロ成長時代の新しい生き方を考えようよ、と著者はいう。

 この本が最初に出版されたのは2010年。リーマンショック後の大きな波が日本にも押し寄せている最中だった。不況の最中に戦後日本の経済成長率推移を見直してみて、著者はある点に注目する。経済成長率は20年(正確には17、8年)をサイクルとして大きく変動していると。56-73年の平均9.1%、74-90年の平均3.8%、91-08年の平均1.1%。となると、現在は新しいサイクルに突入しているのではないか。平均経済成長率はより低位で推移するのではないか。

 サイクルの変化は働き方の変化ももたらす。仕事が日常の一部だった時代から、余暇を楽しむために仕事をする時代に変わる。その考え方は先鋭化し、「仕事=お金」という金銭至上主義にまで至る。現在がその延長線上にあることはいうまでもないだろう。

 仕事はお金のためにすることであり、お金があれば働く必要なんてない。どんな仕事をしていようが、お金さえ稼げれば問題ない。働くことの価値が、金銭一元的になることで、職業倫理、働く上でのモラルの崩壊をもたらしている、という指摘は多くの人が頷けるのではないだろうか。

 今後も資本主義はうまくいき続け、経済は成長し続ける。それが幻想のようなものだ、ということを、今多くの人はうっすらと実感している。じゃあどうすればいいんだろう、という問いに対する答えは、この本の中にはない。答えはそれぞれの人生の日々の中にある。自分の働き方を見つめ直すこと、豊かさとは何か知人や友人と話してみること。そんな日々から紡ぎ出される各自の答えが、また新たな価値観、サイクルを作り出すのではないだろうか。それはきっと、ゼロ成長経済時代にふさわしい、自分たちの身の丈にあったものだろうから。

文=A.Nancy