日本人の20人に1人…アスペルガー症候群のグレーゾーンに位置する「隠れアスペルガー」の人々

社会

更新日:2017/5/22


『隠れアスペルガーという才能(ベスト新書)』(吉濱ツトム/ベストセラーズ)

 社会に出ると、コミュニケーション能力がモノを言う。大人だけではない。子どもの社会でも、今やコミュニケーション能力がヒエラルキーの序列を左右するという見解もある。空気が読めない発言をしたり、突拍子もない行動をしたりすると、ときに「アスペかよ」と辛辣な言葉が浴びせられる。

隠れアスペルガーという才能(ベスト新書)』(吉濱ツトム/ベストセラーズ)によると、「コミュニケーション能力が乏しい」「情緒不安定」「劣等感が強い」「天然」…このような特徴を持つアスペルガーの人たちは総じて“生きづらさ”を抱えている。本書によればアスペルガーを含む多くの発達障害は、「先天的な脳の器質障害」であり、生育歴は一切関係ない。

 ところで、アスペルガー症候群は、精神科を受診すると「アスペルガー症候群である」と診断が下される。しかし、症状が比較的弱いために、アスペルガーの診断が下されず、周囲からも「ちょっと変わった人」としか見なされない人たちがいる。その人たちを、本書は「隠れアスペルガー」と呼んでいる。人数にすると、日本では真性アスペルガー(本書では「隠れ」に対してそう呼ぶ)が90~100人に1人いるのに対し、隠れアスペルガーは40~50人に1人。発達障害カウンセラーとしてアスペルガーを診てきた著者の体感では20人に1人はいるのでは、と推測している。

advertisement

 著者の見立てが実態に近いとすれば、じつに5%の日本人が、隠れアスペルガーとして「生きづらさ」を感じている。しかし、症状が弱いために、精神科にかかることができず、人に相談しても「気にしすぎだよ」と理解されず、「自分はそういう性格なんだ」と自責の念にかられる。本書によれば、行き場のない隠れアスペルガーの多くが向かう先は、「自己啓発系セミナー」や「スピリチュアル系のカウンセリング、ヒーリング」など。しかし、繰り返しになるが、アスペルガーは「生まれつき」「脳の物理的な問題」によるものなので、心の持ちようで改善されることはない。無責任なセミナーやカウンセリングに対して、子ども時代に重度のアスペルガーで悩んだ著者は、憤りをあらわにしている。

 アスペルガーの人は、脳の損壊や変形によって、情緒の安定をつかさどる神経伝達物質であるセロトニンの産出や受容量が少ない。そこで、本書では「ローカーボ」と名付けた療法を推奨している。「ローカーボ」を簡単に説明すると、炭水化物を極力抑える食事療法だ。炭水化物に含まれる糖質を制限することで、セロトニンシステムの機能不全を改善し、セロトニン不足による「やる気がない」「体がだるい」「情緒が不安定」といったアスペルガー特有のマイナス症状を緩和する。

 ちなみに、日本人の自己肯定感の低さがよくいわれているが、この原因もある程度はセロトニンシステムで説明できるという。本書によると、セロトニンシステムにはS型とL型があり、S型の人はこの機能が弱く、「自虐的」「劣等感を持つ」といった傾向が出やすい。日本人の約80%がこの型だという。対してL型の人は機能が強く、ポジティブで自己肯定感が強くなりやすい。自己肯定感で日本人と比べられることが多いアメリカ人の約70%がL型だという。

 アスペルガーは、組織の神経密度のバランスに偏りがある分、異常な才能を発揮する場合があることが知られている。「真性」に比べて、偏りがゆるやかな「隠れ」アスペルガーは、比較的短所を抑え、長所を引き出しやすいという。「ローカーボ」をはじめとした著者のアスペルガー克服メソッド「吉濱セッション」については、本書に当たってほしい。

文=ルートつつみ