図書館で話題の“読書通帳” 開発元インタビューでみえた“図書館”のあり方

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16

 人と本が集まる空間で最近ちょっとした変化を感じる。出版業界と広く捉えればどことなく浮かばれない空気も漂うが、例えば、書店では「泊まれる」「くつろげる」といった付加価値をもたらすコンセプトを持ったお店が注目されている。そして、老若男女にとってなじみのある図書館でも、新しい試みがにわかに話題を集めている。

その試みとは「読書通帳機」と呼ばれるもの。開発を手がけたのはオフィス機器メーカーの老舗として知られる株式会社内田洋行だ。

会社の机やイス、ロッカーの隅っこに「UCHIDA」と描かれた同社のロゴを見かけたこともあるかもしれないが、じつは、図書館をはじめとした教育機関での空間作りにも積極的に取り組んでいる。読書通帳機の仕組みや現状、さらに図書館を中心とした地域づくりへの思いとは何か。開発にかかわった同社の中賀伸芳さんにお話を伺った。

advertisement
公共本部 官公自治体ソリューション事業部 ユビキタスライブラリー部 部長を務める中賀伸芳さん

現在、日本全国13自治体の運営する公共図書館に設置されている読書通帳機。開発を手がけた中賀さんはその役割を「銀行の預金通帳のように、読んだ本の履歴を“財産”として残せるものです」と解説する。仕組みはいたってシンプルで、利用者は事前に個々の通帳を受け取ってから、専用の端末に通せば自分が借りた本の記録を残せるようになる。銀行のATMで記帳するようなイメージだ。

専用端末である読書通帳機。昨年11月には小型版となる「読書通帳機mini」の販売も開始された

多くの自治体では原則的に子どもたちを対象として無償で通帳を配布。大人たちには希望者へ有償で配布されているところもある。通帳のデザインも自治体により様々。「地域ごとの特色溢れるキャラクターやイラストが取り入れられていて、我々から提案することもあれば、自治体ごとに公募で決定されている事例もあります」と中賀さんは話す。

色鮮やかな各自治体の読書通帳。自治体によっては地元企業からの寄付金により運営されている事例もある

初めて導入されたのは山口県にある下関市立図書館。文化ホールや子育て支援センターなども複合させたコミュニティセンター建設にあたり「何か目玉になるものをお願いしますという要請にご提案をさせていただきました」と、中賀さんは開発のきっかけを語る。

開発が始まったのは7年ほど前。ちょうど文部科学省による「子ども読書活動推進計画」がスタートした時期も重なり、学校などで取り入れられていた同様の役割を持つ手書きの「読書手帳」もヒントになったという。

利用者からの反響も届いており「お子さんが大人に見せるという事例もあると聞いています。親御さんからはお子さんが『どんなことに興味を持っているんだろう?』と知ることができるし、学校の先生からは『これを読んでいるならこっちも読んでみれば?』と提案するきっかけができたという声もあります」と中賀さんは話す。

子どもたち同士でもたがいに読んだ冊数を競い合うかのように見せ合う事例もあるようで、読書通帳を通した新たなコミュニケーションも生まれているようだ。

履歴が印字された一例。自治体ごとに表示は異なるが、書名が記載されることでシリーズものの書籍を借りる際の記録としても一役買っているそうだ

利用者側からの反響が聞こえる一方、図書館側からは、実際の利用者数拡大に繋がったという声もある。子どもたちはいっしょに訪れた親のカードで借りるというのが一般的には思い浮かぶが、読書通帳機による履歴は利用者1人ひとりによるため、子どもたちも自分のカードを作るようになったという。

さらに、読書通帳とからめたイベントを手がけた事例もある。山口県の萩市立図書館では“ブックスタート(乳幼児健診などで親子いっしょに絵本に親しむ活動)”との、子育てや読み聞かせに役立つ本の紹介を交えた企画を展開。実際、中賀さんの元には「図書館が親御さんたちの集まる場所になった」という声も届いているそうだ。

読書通帳を通して図書館に人が集まる。近年、地域のコミュニティ作りがつねづね課題に挙げられる中では、行政の機能が集約されたコミュニティセンターを人びとの集まるきっかけにしようという取り組みもみられる。なかでも図書館は、老若男女が足を運びやすい場所として、目玉に据える自治体も多いという。

読書通帳機を一例としてULiUS (ユリウス)のシステムの名でITを駆使した図書館という“生涯学習の場創り”を手がける同社だが、その軸には「図書館の利用者や働く人たちの課題、例えば、利用者と働く人たちの通路が併用されている施設もあり、搬入のときにお子さんの目線に大量の本が迫ってきたら危ないですよね。なにげなく見ていると通りすぎてしまうような課題に気がつき、解決策を提案していきたいという思いがあります」と中賀さんは語る。

加えて、今後の展望については「ITは手段の1つであるため、その存在を感じさせずに図書館を中心に地域の人びとが行き交うような街づくりに貢献していきたいですね。読書通帳機に限らず、例えば、本をかざすと街の歴史や情報へふれることができる端末を設置したり、地域に根ざした人びとの繋がりを作り上げていったりするお手伝いができればと思います」と締めくくってくれた。

◎読書通帳機を導入している図書館(2016年2月1日現在)
北海道 美瑛町立図書館
北海道 斜里町立図書館
埼玉県 鴻巣市立図書館(4館)
静岡県 島田市立図書館
長野県 佐久市立図書館(5館)
岐阜県 海津市立図書館
富山県 立山町立図書館
大阪府 八尾市立図書館(4館)
兵庫県 西脇市立図書館
兵庫県 新温泉町立図書館
山口県 萩市立図書館
山口県 下関市立図書館(2館)
香川県 まんのう町立図書館

取材・文・写真=カネコシュウヘイ、編集補助=井上幸浩