綾瀬はるか主演でドラマ化! “大人も読めるファンタジー”、その冠は伊達じゃない。ついに『精霊の守り人』放送開始

文芸・カルチャー

2016/2/26

――その人は強く、泥だらけで美しかった。

そんなキャッチコピーを掲げて、3月よりついに放送開始するNHK大河ファンタジー『精霊の守り人』。3年がかりで放送される予定の超大作、原作は同名小説とそれに続く「守り人」シリーズだ。著者は上橋菜穂子。2014年、児童文学界のノーベル賞ともいわれる国際アンデルセン賞を受賞した彼女の代表作である。

短槍使いのバルサ。それが綾瀬はるか演じる主人公の名前だ。どこの国の言葉も流暢に扱う流れ者。武骨でたくましい女用心棒のバルサは、得意の短槍を繰り出し、数々の命を救ってきた。年齢は30歳。児童文学の主人公には似つかわしくない年齢設定と、彼女の背負う過去と覚悟は、発売当時、読むものに衝撃を与えた。

そんな彼女が、ひとりの少年を救うところから物語は始まる。彼の名は、チャグム。新ヨゴ皇国の第2皇子であり、なんと父である帝によって暗殺されそうになっていたのだ。理由は、チャグムがその身に宿す、得体のしれない“おそろしいモノ”。父親だけでなく、異界の魔物にまで命を狙われるチャグムを、バルサはチャグムの母であるこの妃から依頼を受けて守ることとなる。

ファンタジーが苦手な人にとっては、設定だけ聞いても「なんのこっちゃ」と首をかしげるばかりだろう。だがこの小説の読みどころは、緻密に作り上げられた世界観だけでなく、バルサとチャグムが通わす心の交流と、そして自分の人生に責任をもって生き抜く人々の覚悟の重さだ。皇子として生まれながらに重荷を背負うチャグムが、まっすぐで純真な志で運命に立ち向かい、そしてやがては国を束ねていく成長の姿は、シリーズを通して胸に詰まるものがある。宮のなかで守られて生きてきたチャグムにとって、「金さえ払えば守ってくれる」、単純明快な信念を抱いたバルサは初めて見つけた味方だっただろう。自分の足で、自分の責任で、悲しみを背負いながら生き抜いてきたバルサの言葉は、彼に残っていた幼い甘えを少しずつ打ち砕いていく。読んでいる私たちも彼と一緒になって、バルサに“生きるということ”を学ぶのだ。

だがバルサとて、完全無欠のヒロインというわけではない。政権争いに巻き込まれた父の理不尽な死を経験し、自身も口封じのために殺されかけてきた彼女にとって、皇子という存在は何より信用できないものだったはずだ。だが、聡明で気骨のあるチャグムの心根に触れることで、彼女はある種の希望を見出し、そして救われていく。彼女にとってもチャグムは、かけがえのない光なのだ。子供の頃あこがれた、かっこいいバルサ。彼女の年に近づいた今、改めて読んでみると、その生きざまがいっそう心に沁みる。

「バルサさんは、見た目はこわい。でも、やさしい人」。年下のサヤにそう言われ、バルサはうなる。「ほんとうにそうだと、いいけどね」。

大人になると、優しさを貫くことがどれほど難しいことか知る。自分を守るため、信念を通すために“こわく”なってしまうこともある。だけどそれでも、優しくありたい。真の意味で。強くありたい、誰にも恥じぬ自分であるために。

そんなことを思いおこさせてくれる、極上のファンタジー。ただ強いだけじゃない彼女の繊細な優しさを、綾瀬はるかがどのように表現してくれるのかにも、期待したい。

文=立花もも

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