ラノベ卒業者の心に刺さる!昭和史&伝奇版『フォレスト・ガンプ』といえる『S20』に注目!!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16

~ソノ男共、怪力乱神ヲ語ラセズ~
敗戦後の混沌とした日本を生き抜く男が二人、おりまして、その名、茶楽呆吉郎と襟之井刀次と申します。不死の呪いに機械仕掛け。そんな二人が掲げる看板は、『不思議問題解決承リマス』

2月15日に創刊した新レーベル「NOVEL 0(ノベルゼロ)」。

その創刊ラインナップの一冊が、伊藤ヒロ・峰守ひろかずの『S20/戦後トウキョウ退魔録』だ。

『魔法少女禁止法』で魔法少女たちが暗躍する異形の日本現代史を描いた伊藤と、『ほうかご百物語』『絶対城先輩の妖怪学講座』などなど妖怪たちを描き続けてきた峰守。そんなふたりが共作の舞台に選んだのは、S20……未だ、第二次大戦の傷跡が色濃く残る昭和20年代である。

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白髪の美男子・襟之井刀次と南方帰りの偉丈夫・茶楽呆吉郎。売れない紙芝居屋を営んで貧乏にあえぐ凸凹コンビには、「不思議問題解決承リマス」の看板のもと、東京を騒がす怪事件に挑む裏の顔があった。ふたりの前に姿を現すのは、リモコン次第で善にも悪にもなる鉄の巨人に、高笑いをあげる金色の骸骨。米軍機墜落事件、 マンテル大尉事件、下山事件……昭和史に隠された異形の真実が今、明らかになる……!

変身ヒーローに巨大ロボット、大怪獣や妖怪が実在した昭和……と聞くと、読者の中には先頃放送されたアニメ『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』を思い出す向きも少なくないと思われる。
それこそ、著者のひとりである伊藤ヒロ自身が、

「なので、コンレボが好きな人はコッチも読んだ方がいいよ!(開き直った)」

https://twitter.com/itou_hiro/status/699627540663545856

なんて率直に述べるとおりに。

もちろん『コンレボ』のファンなら『S20』も楽しめること請け合い。けれど同じジャガイモと豚肉だって料理次第で肉じゃがにもカレーにもなるように、ふたつの作品は題材は似ていてもアプローチは全くことなる作品だ。

「テレビでおなじみのヒーローや怪獣が、もし昭和に実在していたら?」という仮定のもとに平行世界の別の昭和=「神化」を描いたのが『コンレボ』。

それに対して、『S20』は、

「テレビでおなじみの変身ヒーローや妖怪や怪獣は、実は昭和史の中に本当に存在した者たちを元ネタに描かれていたのだ!」

という伝奇的想像力でもって、私たちの昭和史を読み替えていく。

怪異と戦うふたりは、その存在を人々の記憶から消してしまう。だから、昭和史のなかに彼らの存在が記されることはない。けれども、怪異の強烈な印象は、ふとした拍子に蘇り、後の創作者たちにインスパイアを与えることになる。

そう、誰もが知る鉄巨人も、あの大怪獣も、そして、またあの大ベストセラー推理小説も、実は裏では『S20』の2人組がかかわっていたのだ(「な、なんだってー!?」)

あの作品もあの作品もあの作品も、全部「退魔師のせい」なわけで、言わば昭和史&伝奇版『フォレスト・ガンプ』とも呼べそう。

ていうか、峰守ひろかずの書く茶楽呆吉郎サイドと、伊藤ヒロの書く襟之井刀次が交互に展開される連作短編集の形式をとっている本書ですが、最初の頃は、敗戦を受け入れられない旧軍の残党が科学と呪術を融合させた究極兵器でもって米軍に報復を……なんて真面目なノリだったはずが、競作しているうちにタガが外れたのか何なのか、どっちがどれだけバカバカしい大嘘をつけるかという作家ふたりのホラ吹き合戦になっていく。

手に汗握る日米の謀略戦を描いたと思ったら「おまえそれが言いたかっただけだろう!?」で終わるダジャレオチとか、寒村に潜むカルト宗教のあまりにそのまんまなアレっぷりとか、本当にヒドイ(褒めてます)。

ともかく「立ち向かう男たちへ――」なんて「NOVEL0」キャッチコピー、この作品に関しては信じちゃいけません。このシリアスな表紙で、こんなホラ話を描くとか、完全に読者を「釣る」気満々です。ずるい。

いや、まあ、それでも、真面目な題材をシリアスに語ったり、笑いながらバカな話を語ったりすることは子供にもできる。けれども大真面目な顔をして大ボラを吹くような「食えない」態度こそ、ずるい大人の特権であって、その意味ではまさに本書こそ「大人になった男たち」にふさわしい小説……なんじゃないかなぁ?

ところで、貧乏にあえぐ紙芝居作家だったり、南方戦線帰りだったり、片腕を失っていたり、そして何より妖怪の専門家だったりと、主役ふたりの出自を聞くと、やっぱり「あの人」を連想させるのだけど、やがてはふたりの退魔師もまた、昭和の歴史のなかに回収されていくのだろうか……?

そんな続きも気になる『S20/戦後トウキョウ退魔録』。作家二人がシリアスな顔して大真面目に語る、大人のためのホラ話。是非、一席、耳を傾けてほしい。

文=前島賢