禁断の場所ならお任せ? ユルすぎる命のかけ方に苦笑させられる潜入ルポ集!

社会

公開日:2016/2/27


『禁断の現場に行ってきた!!』(村田らむ/鹿砦社)

「見るな!」と言われると見たくなるのが人の性。明らかに危ないとわかっているのに、そんな場所ほど見てみたくなるというものだ。とは言っても、実際に見に行くかどうかは別かもしれない。「見に行かない」というよりは「見に行けない」という方が正しいだろうか。特に「怪しげな場所」ともなると、「命」と「見に行く価値」を天秤にかけて、早々に「見に行かない」という結論を出してしまう人がほとんどなのではないだろうか?

 しかし、そういうところばかりを選んで行きたくなる人も世の中にはいるようだ。潜入記事を専門に執筆するルポライター・村田らむ氏もそんな1人。著書『禁断の現場に行ってきた!!』(村田らむ/鹿砦社)を取り上げることにしよう。

実録マンガと記事でつづる禁断の現場の中身は?

 著者が潜入ルポを敢行した場所は、カルト宗教、裏社会、保険証なしで診てくれる医療機関、路上に貼られた怪しげなチラシで募集される仕事の面接会場、悪臭漂うゴミ屋敷など、どれも怪しくて危なそうなところばかり。何かと危険が多い取材なのに、全体に流れるゆるゆるな雰囲気は、実録マンガで著者があまりにも緊張感のない顔で描かれているせいだろうか?

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えげつない部分をサラッと読ませるのも技術か?

 富士の樹海に死体を探しに行く話など、内容的にはかなりグロテスクなものだ。実際に撮られた写真をところどころ組み入れたマンガは、モザイクがかかっていてもそこに死体があるということがわかるからだ。そのため、見せ方によってはただ気持ちの悪いだけのものになってしまう可能性が高い。しかし、このルポの前半には、樹海の中にテントを張って泊まると星空が美しいこと、全速力で走ってくる鹿は想像以上に危険で、万が一衝突すると大ケガは免れないことなどが書かれており、いくら自殺の名所であっても、なかなか死体には遭遇しないのが現実だということも語られている。

 実際に、著者は「自殺の名所で死体を発見する」という企画で何度も樹海を訪れていたにもかかわらずずっと見つからなかったのだとか。何年もかけてやっと見つかったのがこの本で取り上げた2体だったらしい。だから、著者本人はもちろん、著者に連れられて樹海を訪れた彼の友人たちも、樹海は怖い場所という一般的な感覚はあまり持っていないようで、自然の美しさに感動するだけで帰ることも少なくないようだ。

訪ねてみたら意外と平気? タブーすれすれで切り抜けた危ない異国ツアー!

 北朝鮮を安く訪ねるために、韓国人の里帰りツアーに潜り込んだらむ氏。言葉がわからないながらも、国境を越えるバスの中で韓国人と北朝鮮人の様子を観察していた。前年には同じツアーで韓国人旅行者が殺されたと聞かされても、ピョンヤン駅で写真を撮っていた新聞記者が2年間も拘留されたと聞かされても全く動じない。それどころか「撮るなと言われると撮っちゃう」などと軽く言い放ちながら観光地を巡ってきた。カメラのSDカードを靴下の中に入れて入管のチェックを受けるとは、本当によく無事に帰ってきたものだ。

 北朝鮮ツアーの中継地として立ち寄った韓国でも、あえて自殺橋やスラム街ばかりを巡ってくるのが著者らしい。モラン市場で食べた犬料理は「犬を抱いた時の臭い」がしたのだとか。生きた犬の入ったケージの前にバラバラになった犬肉が置かれている様子はあまりにシュールすぎる。

ゴミ屋敷を作るゴミはどんなゴミ? 掃除しながら探ってみた!

 ゴミ屋敷の清掃ルポには、全身で感じた様子が書き連ねられていた。他のルポ現場と比べると、視覚よりも嗅覚が強く働いた様子がうかがわれる。掘り起こしたゴミの下からお札がわんさか出てきた現場ではハイテンションだったらむ氏も、別のゴミ屋敷でゴミの下から生きた鳥が6羽も出てきたときはさすがに驚いたようだ。ゴミ屋敷の主が、大量のゴミの上から餌をまいて飼っていたらしいが、だらしない人はペットを飼うな!という言葉についうなずいてしまった。ゴミ屋敷の主は女性が多いが、女性が作ったゴミ屋敷のゴミは少ないけど汚いのだとか。それに対して、男性が作ったゴミ屋敷の汚さはそれほどひどくないのに、ゴミの量はとんでもなく多いらしい。やはり男性の方がコレクターが多いのだろうか?

体当たりとはこのこと? 自分の身体で試してみた!

「体当たり」「命がけ」という言葉は潜入取材につきものだが、本当に身体に危険が及ぶ取材もある。精神異常者のふりをして精神病院に入院してみたら、本当に治療されてなかなか出られなくなったという。薬物治療もある上に、周りの奇声や奇行で平常心を保つのが難しく、かなり危険な取材だったようだ。

 北朝鮮や韓国のスラム街で「撮ったら殺されるから撮るな!」と注意されているのに写真を撮ってしまう取材ぶりには正直あきれる部分もあった。しかし、彼の無茶な仕事ぶりがなかったら、見ることのできなかったものばかりだから、それなりにありがたく思う。しかも、そんなルポの内容を「意外とくだらないな」と軽く言わせてもらえるのも、禁断の場所ばかりを選んで潜入取材をしてくれた彼のおかげと言うべきなのだろう。

文=大石みずき