トム・クルーズ、ミッツ・マングローブも告白した障害「難読症」の少年が見つけたものとは?

文芸・カルチャー

2016/2/29


『暗号のポラリス』(中山智幸/NHK出版)

暗号のポラリス』(中山智幸/NHK出版)の主人公・斎賀結望(サイガ・ユノ)は、「難読症(ディスクレシア)」である。「学習障害の一種で、知的能力及び一般的な理解能力などに特に異常がないにもかかわらず、文字の読み書き学習に著しい困難を抱える障害」(Wikipediaより)である。一般的な会話は十分可能だが、文字や文章は理解できない。ひらがなの文章さえもすらすら読めない。ハリウッド俳優のトム・クルーズがこの障害を持っていることを告白し、多くの人の知るところとなった。彼の場合、台本は誰かがまず読み上げ、それを覚えるそうだ。が、この「難読症」という障害は、一見しただけではわからない。症状には個人差もあるようだが、本書では、幼少の頃からのユノの様子と家族の対応が描かれており、まずは「難読症」を理解する端緒となる。

この物語のはじめ、ユノは小学生。一回り以上年の離れた兄・昭彦と父母との4人暮らし。母は、障害を抱えた息子を憂慮し、特別支援学級を作るべく、普通学級で十分とする教師と対立。一方で、彼女は文字のような記号を考案。文字理解のできないユノが通る道しるべとしていた。だが、ユノが小学5年生の時、父母は事故に遭い、ある日突然いなくなる。ユノは、兄、そして兄の恋人・真理子を加え、3人の生活を始めることとなる。

フリーライターの真理子は、一見天衣無縫な立ち振る舞いだが、ユノの障害を知り、彼とどう接してよいかわからず、内心は困惑している。その細かいやりとりは、「難読症」をよく知らないものにも共感を得るだろう。

やがて小学6年生となったユノは、真理子を通じて知った「マリー」と呼ぶタブレット端末をやりとりすることで、周りへの理解を広める手段を得る。

「まずは見晴らしのいいところに立つんだ。未来まで見渡せそうな、胸のすく場所へ行け。そこで自分の北極星(ポラリス)を決めるんだ」――これはユノの亡き父が残した言葉。自分にとって、北極星(ポラリス)とは何なのか。生きていく指針を見出していくにはどうしたらよいのか。ユノは「マリー」を携え、父の写真をたよりに、やがて真理子とともに長崎の無線塔の取り壊し前、最後を見る旅に出る。

2人の旅の描写は、さながらロードムービー。ユノと真理子は幾度かのドタバタを経て、なんとか目的地へと辿り着き、ユノは目的地の鉄塔を昇降する。そこで、父が残した言葉は頂上を目指せという意味でなく、闇雲に降りていくことを諫め、自分の位置をはっきりさせたのちに次の一歩を見極めるのだ、というメッセージだったとユノは気づく。要は深慮に次ぐ深慮の上、進学や進む道を考えよという父の遺志だろうか。目先には特別支援学級(学校)中学進学か普通学級中学進学か、遠くには進む道、ユノの決断はいかに――小学6年生にして父の言葉の意味に気づく主人公は若干早熟な印象だが、少年のみずみずしい心の成長が感じられ、読後さわやかな物語だ。

文=塩谷郁子