魂はパンク・ロック!累計発行部数6000万部を世に送り出したライトノベル編集者 【超本人 第3回】

ビジネス

2016/2/29

  

『灼眼のシャナ』、『とある魔術の禁書目録』、『ソードアート・オンライン』、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』。ライトノベル好きでこれらのタイトルを知らない人はいないでしょう。
 いずれも、ライトノベルの歴史に名を残す、メガヒット作品です。しかし、これらの作品がすべて同じの編集者の手によって世に送り出されていることはあまり知られていないのではないでしょうか。
 その編集者の名前は、三木一馬(みき・かずま)さん。現在、電撃文庫の編集長を務める彼が14年間のキャリアで担当した作品の総発行部数はなんと6000万部以上! 昨年の文芸界の話題を総ざらいした又吉直樹さん『火花』の発行部数が240万部(2015年12月時点)。文庫本と単行本の違いはあれども、その数字の物凄さが分かります。

 そんな三木さんが昨年末に書籍を出版されました。タイトルは『面白ければなんでもあり』なんと、こちらの本ではこれまでの編集者としてのノウハウを惜しげもなく公開しているとか……

 というわけで今回の「超本人」では、そんな三木さんにお会いして、著書についてのお話はもちろん、超一流の編集者となるための秘訣を伺いたいと思います!

――どうもこんにちは! 本日はよろしくお願いいたします。

三木一馬氏(以下、三木) どうぞよろしくお願いします。

――早速ですが、担当作品の累計発行部数6000万部、凄過ぎます……。ただ、出版業界についてあまり詳しくない方は、「担当編集」が何をしているのかよく分からないのではないかと思います。電撃文庫の編集の皆さんは普段どのようなお仕事をされているのでしょうか。

三木 普段の仕事は、作家さんと打ち合わせをして、電撃文庫やメディアワークス文庫を編集することです。そのタイトルに関連したメディアミックスの監修なども大事な業務の一部となっています。電撃文庫編集部では、電撃小説大賞に応募された作品以外は、ゼロから作家さんと二人三脚で作り上げていきます。もちろん、実際に物語を紡いでいくのは作家さんですが、どうすれば書き手の持ち味を引き出せるか、どのような設定ならばより多くの読者の心に刺さるか、などを提案したりします。

――なるほど。著書の中では、三木さんの仕事に対するスタンスであり、タイトルにもなっている「面白ければなんでもあり」という言葉が沢山登場しますね。これはどのような意味なのでしょうか。

三木 話すと少し長くなるんですが、僕が新卒でメディアワークスという会社に入社した頃は、まだ「紙」に圧倒的な力がある時代でした。面白いものの核には必ず小説やマンガがあって、そこにお金を払ってもらうというビジネスが当たり前でした。でも、今はすこし変化してきていると思っています。あらゆる個人や企業がメディアとなれる時代だからこそ、「面白い」ということにより一層こだわらないといけないのではないかと。そういう意味では、「紙」だけにこだわっていたらだめで、「面白いものを死ぬほど作る」こと、「面白いものを適切な形でエンドユーザーに届ける」ことを意識していくことが大事なのではと考えています。つまり、フォーマットは重要ではなく、中身の面白さが伝わればどんな形でもいいのではないかと。だから、“面白ければなんでもあり”。これはもともと電撃文庫編集部の考え方であり、電撃小説大賞のキャッチコピーにもなりました。

  

――電撃文庫そのものを表す言葉でもあるんですね。ところで、今回の書籍はどういった経緯で生まれたんでしょうか。

三木 きっかけは、外部の編集プロダクションの方から依頼を受けたことです。それも、大作家に届くような直筆のお手紙を頂いて(笑)、企画意図や熱意みたいなものが書かれていて、これは凄いな、と思っていたんです。ですが、その企画書の手紙にこう書かれていたんです。「(前略)そして、三木さんがお書きになる書籍のタイトル、すでに自分はこう考えています。題して――」と。そして、その肝心なタイトルの部分が空白だったんですよ。

――ほう……。

三木 それで、これは僕に考えろって意味なのか、それとも単なる書き忘れなのかがやたら気になってしまって……実際に会って聞いてみることにしたんです。そしたら、本人が「えっ……すっすみませんでした!」って(笑)。なんというか、その微妙に抜けた感じが面白くて、その編集者を気に入りました。

――そんなきっかけが! 本の反響はいかがでした?

三木 それがですね、サインを求められるようになったんですよ(笑)!

――サイン! ちゃんと応じられるのですか?

三木 はい。でも、最初はすごく戸惑いました。編集者の自分が……って。でもよく考えてみると、僕たち編集者は、いつも当たり前のように作家さんにサイン会をお願いしています。けれど、人前に出てサインをすることが好きな作家さんなんて皆無なんです。そこを「読者のためですから!」と、無理を言って作家さんに応じて頂いているんです。そう考えたら、「恥ずかしい」とか「そういうの柄じゃないんで」とか、そんな理由で自分だけが求められているサインに応じない、というのは矛盾があるなと……だからもう開き直って、最近は「いつでもこい!」と応じるようになりました。ほとんど同業者からなんですが(笑)。

――(笑)それでは、後ほど私にもサインを頂ければ!

  

いただきました!

――ところで、電撃文庫編集部の皆さんはこの本はお読みになっているんでしょうか……?

三木 えーどうでしょう。分からない、実は聞いたことが無いんです。でも読まれていたら恥ずかしいですね(笑)。

――本書では三木さんが実際に作家さんとどのように作品を立ち上げてきたのかが具体的に紹介されていますよね。もう一つ、作中には「トレンド」という言葉もキーワードとして出てきます。

三木 経済とかファッションで使うトレンドとは少し意味が違うのかもしれませんが、僕の場合は、近い将来において、読者が読みたくなるであろう作品の方向性や趣向のことを“トレンド”と呼んでいます。というのも、電撃文庫はゼロから企画を立てると発売されるまでに半年ぐらいかかりますからね。今流行っているものではなく、少し先の新しいものを意識しています。

――とはいえ、「新しい」と「読者が読みたい」は一致しないこともあるのではないですか?

三木 もちろんそうです。だからいつも試行錯誤の連続なのですが、僕は自分ルールとして“チョイずれ”というものを意識しています。

――「チョイずれ」ですか。

三木 そうです。あまりにも今流行っているものと逆ベクトルを向いている作品は、読者にもソッポを向かれてしまいます。最初はほんの少しのズレでいいんです。流行からすこしズレたものを意識する。それが大事なのではないかと。

  

――しかし、まだ新しい作品の「チョイずれ」はどのように読者に気付いてもらうのでしょうか。

三木 それが、編集者の腕の見せ所だと思っています。「あらすじ」・「イラスト」・「キャッチコピー」・「タイトル」。まず、そこでいかに読者に興味を持ってもらえるかどうかです。

――そこが優秀な編集者の一つの要素でもあるんですね。

 そうですね。先ほどお話しした「適切な形でエンドユーザーに届ける」に含まれるひとつでもあります。あと、そのスキルはひたすら「数」をこなして身に付けるしかないです。そして、その為にはただひたすら編集をしまくる、ということが大事だと思います。

――……なるほど。それでは、いまライトノベル編集者を志している若い学生に、何かアドバイスはありますか?

三木 まずは、今やっていることと、あえて真反対のことに挑戦して、極めるくらいの知識や技術を身につけておくと良いと思います。これは本当に、何でもいいんです。たとえばシュノーケリングでも、バンド活動でも、宇宙物理学でも。まったく関係無い分野だと思うかもしれませんが、いつかそれが絶対に編集者として役に立つ日がきます。あと、これもとても大事なのですが、日本は残念ながら学歴社会なので、しっかりと勉強して良い大学に入っていた方が、出版社には入りやすいです。確率論として。

――因みに、三木さんのご趣味は?

三木 僕はパンク・ロックが好きなんです。特に、パンクの成り立ちや、考え方が。もともと1950年~1960年代の不況下におけるイギリスで生まれ、政府や権力者に反抗する歌が労働階級に指示されたものがパンクでした。そのムーブメントがイギリスから、経済的に豊かなアメリカに渡ると、今度は巨大資本の大手レコード会社に反逆するスタンスのパンクミュージックが生まれました。自分たちで、レコードレーベルを立ち上げて、CDを出して、バンひとつで全米を行脚してライブツアーをする、という感じで。いまではDIY(Do It Yourself)という言葉は日曜大工を指しますが、これはもともとパンクの言葉です。「なかったら自分たちでつくる」「自分たちでぜんぶやる」、という考え方なのですが、僕はこれに強く共感しています。僕が所属する出版社は商業主義の組織なわけですが、「(面白いものが)なかったら自分で作る」という反骨精神は、どこか通ずるものがあると思っています。

――三木さんのキャリアの原点にまさかパンクにあったとは…… それでは最後に、これからのラノベ業界になにか一言ありますか。

三木 はい、最近よく「ラノベは終わった」とか「ラノベはつまらない」とか言われることがあるのですが、それが僕はとても悔しいです。だから、ライトノベルというジャンルに縛られることなく、もっと面白い作品を作って、周りもそれよりもっと面白いものをつくって、お互いが競い合ってこの業界を盛り上げていきたいです。今回の『面白ければなんでもあり』を出版したことには、そういう意味も少なからずあります。ともに、ライバル視しながら、市場をあっと驚かせるものをつくりあげたい、それが僕の夢です。

――なるほど。これからのライトノベルまだまだ楽しみですね! ありがとうございました。

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