母親は母乳マシーンではない ママ医師による“中立”な授乳本

出産・子育て

公開日:2016/3/2


『産婦人科医ママと小児科医ママの らくちん授乳BOOK』(宋美玄、森戸やすみ/メタモル出版)

 初めて子供を授かった新米ママの悩みはつきないもの。中でも母乳やミルクにまつわる問題は、赤ちゃんの成長に直接関わってくることもあり、新米ママたちが神経質にならざるを得ない非常にデリケートな事柄だ。しかし、じつは世の中に溢れている母乳に関する情報は、必要以上に母乳礼賛に偏っていたり、根拠のよくわからない非科学的なものだったりすることが多い。

 たとえば、“油ものや甘いものを食べるとおっぱいがまずくなる・詰まる”“母乳が足りないときはハーブティーを飲むとよい”など、「それはどういう理由で? 本当に?」と思うようなことが、インターネットの育児サイトなどでまことしやかに語られている。さらに、医療従事者である助産師ですら、それをさも当たり前の情報であるように語っている現状がある。

 また、母乳信仰が強い現代では、「母乳で育ててこそ一人前」という価値観が広く浸透している。そのため、母乳の出にくいママが、ミルク育児や混合(母乳にミルクを足す方法)育児に必要以上に罪悪感を持ってしまう。産後、ホルモンバランスがガタガタに崩れて情緒不安定なところに、周囲の何気ないひとことから「満足においしい母乳をあげられないなんて母親失格」という圧力を感じて落ち込んでしまうことだってあるのだ。

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産婦人科医ママと小児科医ママの らくちん授乳BOOK』(宋美玄、森戸やすみ/メタモル出版)は、そんな新米ママが悩みがちな授乳全般の疑問について、産婦人科医と小児科医であるふたりの著者が、根拠を示しながら答えるという今までにありそうでなかった授乳本である。「母乳信仰」でも「粉ミルク信仰」でもない中立な立場から、母乳と粉ミルクの違いや、授乳の方法、トラブルへの対処などを、きちんと文献資料もある医学的根拠に基づいた内容でわかりやすく解説している。

 とはいえ、ガチガチの医学書なのではなく、著者のおふたりは、自身も子育て経験のあるママということもあり、多くの悩めるママの気持ちをほっと楽にしてくれる言葉もたくさん書かれている。

まず、お母さんは「母乳をあげるマシーン」ではありません。「完全母乳で育てるために、ここまでがんばろう」と思うラインは、一人ひとり違って当然です。赤ちゃんを愛しいと思う気持ち、優しく笑いかけられる余裕も大切ですから、「母乳が絶対」と思うあまりに、精神的に消耗しないようにしましょう。

 さらに、冒頭で紹介した、“ママの食生活によって母乳の質・出やすさが変わるから、あれは食べてはいけない、これは食べるべき”というような母乳の都市伝説も「ほとんど全ての食べものや飲みもの、嗜好品はOKです」「高脂肪の食品をとりすぎて乳管を詰まらせ、乳腺炎の原因になるということはないのです」と一蹴。きちんと証拠を示しながら、「何を食べてもいいんだよ!」と言われるだけでも、救われた気持ちになるママは本当にたくさんいるはずだ。

 本書の「おわりに」で、著者のひとりである森戸やすみ氏はこう語る。

きちんと管理されているかどうかもわからない母乳をインターネットで購入するほど、母乳不足に焦ったり、母乳育児ができないことを悲観的に捉えたりするお母さんもいるということを私たちは知らなくてはなりません。

 初めての育児は何もかもがママにとっても初体験で、日々、悩みはつきないもの。授乳について、人知れず深く悩んでいることだってあるかもしれないのだ。そうした気持ちに寄り添いながら「過ぎてみればあっという間の授乳期を、ママも赤ちゃんもなるべく楽しく笑顔で過ごして欲しい」という著者の温かいメッセージが随所にちりばめられた、現役ママ・プレママにおすすめしたい一書である。

文=本宮丈子