鈴木麻純 「人生を謳歌するカギは死を考えること」

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/27

遺品蒐集家の青年・高坂和泉を主人公にした異色のライト・ミステリー『ラスト・メメント』(角川書店)。作者の鈴木麻純さんは、2008年、アルファポリスミステリー小説大賞を受賞してデビューした、期待の新鋭。彼女が小説を書くきっかけの一つになったのは、大学時代に気づいた“人の感情の激しさ”だという。

「大学では民俗学を専攻していて、卒論のテーマにしたのが、『安珍と清姫』だったんです。大蛇に姿を変えてまで好きな男を追いかけ、ついには焼き殺してしまう─。あの話を調べていくなかで、感情によって化け物にまでなってしまう人間の激しさみたいなものに非常に興味を持って。それから、ちょっと怖いんですけれど(笑)、怨念や亡霊についての話を中心に調べるようになり、それがきっかけで、自分もそういうものをテーマにした小説を書きたいと思ったんですね」

それが、人の恨みを引き受ける現代の天才陰陽師・三輪辰史を主人公にした大賞受賞作『蛟堂報復録』シリーズへ。次に、平安朝の闇を斬る冥府の役人・小野篁を主人公にしたホラー・ファンタジー『六道の使者』へと結びついた(ちなみに、どちらも登場人物のキャラが立った快作である)。さらに本作『ラスト・メメント』では、怨念や亡霊などの世界に加えて、メメント・モリ(=死を想え)という警句=死生観をはじめ、自分自身の“好きなもの”を、すべて詰め込んでみたのだという。それにしても“遺品蒐集家”というアイデアは、どこから生まれてきたのだろうか?

「昔から、伝記や歴史小説や時代小説を読んで、そのなかで、人の生きざまみたいなものを調べていくのが、すごく好きで。でも、何のお蔭でここまで人の歴史が残っているかといえば、それはやっぱり“物”に集約されているのかな、と。それで、主人公を遺品蒐集家にして、亡くなった人の遺品から、その記憶や生きざまを読みとる話を書いてみたくて。ただ、それを歴史上の人物にしてしまうと話が途方もなく大きくなってしまうので、今回は、もっと身近な人たちの遺品から、その生前の想いを読みとるような話にしようと思ったんですね」

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「死を考えるということは、結局生を考えるということ。いろんな死に触れることで、自分はどんなふうに人と関わり、どんなふうに生きて、どんな死を迎えたいかと考えるようになる。だから、死を想うというのはむしろ自分なりの人生を謳歌するためのカギなのではないかな、と。ラスト・メメント=最後の記憶というタイトルは実は、そんな思いもあって、つけました」と鈴木さんは語る。

(ダ・ヴィンチ12月号「こんげつのブックマーク『ラスト・メメント 遺品蒐集家・高坂和泉の日常』鈴木麻純」より)