織田信長の70年前にいたもう一人の信長とは!?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/28

〝歴女〟のブームこそ一段落した感があるが、「日本史」は依然として人気の高いコンテンツだ。とりわけ戦国時代には、その時代そのものにファンがついているとも言われる。
  
フィクション・ノンフィクションに関わらず歴史物は〝知名度〟の勝負だという。織田・豊臣・徳川あたりは鉄板、武田・上杉をはじめとする有力武将も〝売れ筋〟だ。件の歴女ブーム以降、人気武将の幅も拡がったが、それも戦国末期中心。正確にいえば織田信長以降の時代に限った話。
  
希代のストーリーテラーで知られる真保裕一が挑んだ新作『天魔ゆく空』は、歴史・戦国物の売れ筋の定石から外れるものだった。選んだのは「応仁の乱」後。
  
戦国時代の幕開けとして よく知られた歴史用語だが、その詳細を語れる者は少ないという。現に真保氏がいくつかの出版社に企画を持ち込んだところ、多くは難色を示したらしい。
  
『天魔ゆく空』の主人公は、信長に先立つこと70年、〝半将軍〟との異名をとった怪人物、細川政元。少し歴史に詳しい人ならば、応仁の乱で東軍を率いた勝元の息子であり、奇行で有名だったことを知っているだろう。真保氏は彼の奇行には複雑な事情があったという大胆な仮説を立てた。カギを握るのは、政元の姉にして「鬼瓦」と呼ばれた姫君。
  
「はたして本当に彼女は醜女だったのか。その疑問がすべての発端だった」と真保氏はいう。本作には派手な合戦シーンは少ない。しかし、謀略渦巻く中世の権力闘争がエキサイティングに描かれている。これが、すごい!
  
真保ファンはいうにおよばず、歴史物に目のない読者を必ずや引き込む傑作。歴史解釈の醍醐味を味わいたい人はぜひとも『天魔ゆく空』を手にとってもらいたい。
  
(ダ・ヴィンチ6月号 今月のBOOKMARK EXより)