JKの奴隷となった男が大金稼ぎのために殺戮ゲームへ身を投じる! ラノベの正統進化型エンタメノベル『Slave†Money』

文芸・カルチャー

2016/3/8


『Slave†Money』(鳳乃一真/KADOKAWA)

もしも大金が手に入ったらどうするか。誰でも一度はそんな想像をしたことがあるだろう。車や家を購入する。海外旅行で豪遊する。株や為替に投資する。将来に備えて貯金するという人もいるだろう。しかし「奴隷を買う」という選択肢を考えた人はいるだろうか。

今回紹介する『Slave†Money』(鳳乃一真/KADOKAWA)は、借金のカタに身売りされた主人公が、女子高生の奴隷となって大金を稼ぐために殺し合いゲームに挑む近未来バトルアクションだ。

13年前に勃発した戦争により、金の力がすべてを支配する社会へと変貌した国・日和(ニホン)。長年を海外で過ごし帰国した禅十郎は、背負わされた家族の借金を返済するためにバイトを転々としていた。ある日、禅十郎の債務を引き取ったという女子高生・闇神閻麻が現れ、彼女の奴隷になる。奴隷となった禅十郎は、秘密組織「百鬼夜行」が経営するカジノ「エバー・オブ・エデン」の地下闘技場へと連れられ、殺し合いゲームに放り込まれる。

左眼に眼帯、右腕を包帯で吊ったミステリアスでシニカルな女子高生・闇神閻魔。海外暮らしで悲惨な光景を何度も目の当たりにし人生に達観している男・禅十郎。お互いに複雑な過去を抱えた2人が偶然出会い、奇妙な主従関係が始まる。ひとつ屋根の下で同居し、身体の不自由な彼女に代わって買い物に出かけ、料理を作り、部屋を掃除し、風呂で身体を洗ってやる。その手の願望のある人には、理想の労働環境かもしれないが、殺し合いで金を稼ぐという項目が含まれていたらどうだろうか。

殺し合いといっても、仮想世界での話だ。現実に限りなく近く再現された《完璧なる虚構》の世界では、闘技者は殺されてもゲーム終了後に生き返る。金次第で刃物や銃や手榴弾といった武器をゲーム内に持ち込むこともできれば、超能力めいた「スキル」を使用することもできる。ある者は無双の怪力を、ある者は神速の駿脚を、またある者は鋭敏な超感覚を身に宿した超人となる。まさにマンガやゲームのキャラクターだ。

金持ちたちは、特等席で優雅にシャンパンを飲みながら殺人ショーを眺め、どちらが勝つかを賭ける。この殺人ギャンブル《グラディエート》に、奴隷となった禅十郎も参加させられる。人間の限界を越えたスキルを持った超人たちを相手に禅十郎はスキルに頼ることなく鍛えた肉体と技術で連勝記録を重ねていく。対戦者を殺すことに一切の躊躇いもない冷徹な戦いぶりは驚嘆せずにはいられない。

勝ち進んでいくうちに閻麻の過去や目的も徐々に明かされていく。閻麻も闘技者であり、大切な親友と人間としての尊厳を取り戻すために莫大な大金を必要としていた。閻麻からすべてを奪った男・光神喜羅は、表では国を救った政治家として称賛を浴び、裏では《グラディエート》の元締めの一人として、閻麻に歪んだ愛情を向けて苦しめていた。そして禅十郎も光神喜羅とは浅からぬ因縁があった。

禅十郎と閻麻はタッグを組み、光神喜羅に踏みにじられた過去と決別するため、巨額の賞金のかかった大規模バトルロイヤルへと挑む。

闇神閻麻の憎悪と復讐心、光神喜羅の欲望と愛情、禅十郎の意地と誇り。登場人物たちの譲れない価値観と愛憎のぶつかり合いが戦いの興奮をかきたてる。リアリティ溢れるバイオレンスな描写と、ライトノベル的なゲーム性が融合した、これぞライトノベルの正統進化型エンタメといっていいだろう。さまざまな過去を多く抱えた大人の読者にこそ胸を打つに違いない。

文=愛咲優詩