現役AV女優・紗倉まなの文才に驚嘆! 元風俗嬢、セックスレス…女たちの孤独と性を描いた『最低。』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15

最低。』(KADOKAWA)は現役人気AV女優・紗倉まなが初めて手がけた小説集だ。彼女が連載コラムやエッセイで活躍しているのは知っていたが、創作とコラムはあくまで別物。どんなものになっているのか、やや不安混じりで読み始めたのだが…冒頭の作品「彩乃」のファーストシーンでいきなり打ちのめされた!

SNSで知り合った洋平と食事をしている19歳の彩乃。その秘めた胸の内が、12月の凍てつくような東京の景色と、初対面らしさの漂うセリフの応酬とともに巧みに描かれてゆく。ページを開いた読者は、たちまち彩乃の心に同調することになるだろう。

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収録作は全部で4作。いずれにもAV女優として生きることを選択した女性が登場する。読んでいて驚いたのは、著者自身をそのままモデルにしたような人物が出てこないこと。描かれているのは、AVに出演しながら恋人との同棲生活を送っている元風俗嬢の桃子、夫とのセックスレスにやりきれない思いを抱えている裕福な主婦の美穂など、環境も年齢も異なる女性たちだ。

実は本書刊行のタイミングで著者にインタビューさせてもらったのだが、その際「自分から遠いキャラクターの方が書きやすい」と発言していたのがとても印象的だった。どうやら紗倉まなの想像力は、根っからフィクション向きのようなのだ。

彩乃はスカウトマンの洋平に勧められ、AVプロダクションの社長・石村に会いに行く。石村は言う。「決して女の子を使って稼ぎたいってわけじゃないんです」「変に利用されるくらいなら、僕のところで守ってあげたいと思ってるだけで」。こうして彩乃は石村のプロダクションに所属することになる。

一般にAVという言葉には、ダークでブラックなイメージがつきまとう。本書はそんな思いこみを、鮮やかに打ち砕いてくれる本でもある。すべての女性が騙されてAVに出るわけじゃない。人生の選択肢のひとつとして、彩乃や美穂のように、自らAVを選ぶ女性だっているのだ。

その一方でAV出演を認めない家族と彩乃との激しい口論も描かれていて、社会の目の厳しさを描くことも忘れない。AV業界に対する作者のバランス感覚がなんとも絶妙で、そのことが作品の間口を広げている。こういうAVの描かれ方は、今まで読んだことがなかった。

個人的に好きなエピソードは、最終話の「あやこ」だ。喫茶店を営んでいる祖母、元AV女優で〈いんらん〉と呼ばれる母、そして祖母に育てられた孤独な少女・あやこ。同居する3人の女たちの人生が、ときに交わり、ときに反発し合いながら、少しだけ前へ進んでゆく物語。3人の生と性を肯定する作者のスタンスに、静かな感動を覚えた。

デビュー作としては充分すぎるほどのクオリティを備えた『最低。』は、男女問わず一人でも多くの小説好きに読まれるべき作品だ。紗倉まなにはさらなるポテンシャルが潜んでいそうな気がするので、次回作以降も期待したい。

文=朝宮運河

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