仲間は総じてクズ!探偵・狭間が闇社会に真っ向勝負!依頼は”失踪した妹の捜索”

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15


『境界探偵モンストルム』(晩杯あきら:イラスト/KADOKAWA)

いつか憧れた揺るぎないヒーロー像とハードな人間ドラマを送り出す小説レーベル「ノベルゼロ」。大人が惚れる大人の主人公を通して、物語に触れる喜びを追求していく。そんな「ノベルゼロ」から今回取り上げるのは、十文字青著『境界探偵モンストルム』(晩杯あきら:イラスト/KADOKAWA)だ。

こんな街にいたら年中退屈しないのだろうな、と思う。

それは怖いもの見たさで闇の世界を覗いてみたいという好奇心であり、裏社会とは縁のないところで生きているからこその無責任な憧憬ともいえる。

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境界探偵モンストルム』で描かれるのは、そんな憧れを叶えてくれる闇の世界とその住人たちである。

本書の舞台はある都市の周縁部(Out of Bounds)、通称OBといわれる地域だ。ヤクザ、ギャング、マフィアの複合体「YMG」が根を張り、国際犯罪組織や不法移民も跋扈。さらには人狼や淫魔といった“異種”も潜んでいる。警察すら治安維持を民間に丸投げするほどの危険地帯だが、それでも活気があってなんだか楽しそうなのだ。

夜のテクニックもドライビングテクニックも抜群な風俗嬢に、風俗マエストロと呼ばれる絶倫の92歳、まるで漫才コンビのようなYMGの若頭と子分……などなど街を歩けば変人に当たる、といってもいい。道ばたで軽口を叩いたり、スナックでくだをまいたり、彼らが活写されるたび自分もその世界の住人になった気分になる。とはいえ、カタギの訪れるような場所ではないということは、当然、本気でヤバいヤツもいるわけで。じゃあ、もし何か危ない目に遭ったら? そうしたらヤツに相談すればいい。狭間ナルキヤに。

ナルキヤは本書の主人公であり、OBに事務所を構える探偵である。とはいえ、けっして腕っ節が強いわけでも特別な能力があるわけでもない。ちょっとだけ特殊な過去を持ち、今は探偵をやっているということを除けば、ゲームとカップラーメンが大好きというごく普通の青年だ。OBの住人でありながら特に変わったところがないというところが、変わっているといえば変わっている。

見た目でいえば頼りがいのない男かもしれないが、それでもナルキヤは信頼できる実直な探偵だ。調査はしっかり足で稼ぎ、ホコリひとつ見逃さない観察力もある。アクシデントがあっても常に冷静で、酷い拷問をされようともなんとか耐えようとする。何より期待できるのは、彼の人たらしな部分だ。口八丁手八丁で伝手を最大限に利用し、OBの住人たちもなんだかんだ言いながらナルキヤに協力する。特にときたま相棒となる半吸血鬼の逆白波(さかしらなみ)アロヲが同行してくれたら、もう安心だ。ヤツはとにかく強い。そのうえ、ナルキヤとの口喧嘩というコントのようなオマケも必ずついてくるから、まあ暇をもてあますことはないだろう。

そんなわけで、今宵もナルキヤのもとへ依頼がやってくる。依頼は失踪した妹の捜索。一緒に失踪したという男も怪しければ、依頼してきた姉もどこか不思議な雰囲気を漂わせている。ここから紡がれる物語はいたってシンプルだ。調査と追跡。それだけなのに、やっぱり退屈しない。総じてクズな闇の住人が入り乱れるバイオレンスでハードボイルドな世界に、自分も足を踏み入れた気分になれるから。皆さんもぜひ、“境界のこちら側”へ足を踏み出してみてほしい。

文=岩倉大輔