お金を理由に結婚や出産を諦めないために… 賢く楽しく生きるための「お金の教養」

マネー

公開日:2016/3/13


『働く君に伝えたい「お金」の教養』(出口治明/ポプラ社)

 年金はアテにならない、若者2人で高齢者1人を支えなければならない、少子高齢化、消費税は増税。そんな時代を支えることを使命とされた若者世代が背負う未来は、やはり「お先真っ暗」なのだろうか? 将来にわたり必要となるお金を考えると、イメージすらできないために不安は余計に増し、クラッとするものだ。若者世代は、今後約60年にわたり、その不安に支配され続けなければいけないのだろうか。

 ライフネット生命保険株式会社の会長である出口氏は、自身の著書『働く君に伝えたい「お金」の教養』(出口治明/ポプラ社)の中で、若い世代が持つべきものは将来に対する漠然とした不安ではなく、賢明なお金との付き合い方であるということを提唱している。

 冷静に考えてみると、年金問題や少子高齢化、消費税の問題など、将来の不安要素は全てお金にまつわるものではないだろうか。しかし、その不安要素となっている問題の本質を説明できる人は多くないかもしれない。

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 例えば、いきなり社会人になってしまったけれど、自分にあった保険の選び方やお金の貯め方・使い方に関する知識も曖昧なままに、結婚や出産はいつにしよう、親の介護に必要な費用はどうすればいいのか…と、漠然とした不安に悩みながらも、解決策は見出せないでいる20代の若者が、その例ではないだろうか。「お金の疑問や不安はあるけれど、流れに任せておけばなんとかなる」、そんな考えこそが、なんとかはなっても上手くは運べずに、常に不安に支配されたままの状態を膠着させる原因となっているのだ。

 本書の中で出口氏が述べていることのうちに、このような一節がある。

お金を理由に、結婚や子育てを延期したり中止したりする必要はまったくない。いつ産んでも、かかる費用はそうは変わらない。

 出口氏によれば、毎月ちゃんと働いていれば、そのお金でまかなえるのだという。これを聞いて、どれだけの20代の若者が驚くだろうか。結婚や出産を延長することで、お金は貯まるかもしれない。しかし、その分年齢が重なることになる。メリットはあっても、デメリットの方が大きくなる可能性すらある。

 もしも、お金を理由に結婚や出産を延期する必要の有無を建設的に説明できるわけでもなく、保険の正しい選び方を知っているわけでもなく、選挙に出向いて政治参加しているわけでもないのに、勝手にお金にまつわる不安や疑問、社会への反感を抱いているとしたら…それは、お金まわりのリテラシーに欠けている証拠である。

 しかし、若者の不安が絶えない原因はそれだけではない。例えば、よく耳にする「バブル時代はこうだった、昔の年金は今の○倍だった」というバブル世代の嘆きは、過去と同じ社会のしくみや情勢の枠組みを、現代に無理やりそのまま当てはめているにすぎない。そうした過去と同じ価値観の軸の上でしか比較しない「バブルおじさん」の言葉をはじめとした、若者の不安を煽るような内容の報道に惑わされたりしていることも、その原因の一つである。

 本来ならそこで、なぜ、本質を抜かした不安要素の外枠のみしか耳に入ってこないのかという観点から、メディアや世の中のしくみを疑うべきなのだ。

 本書では、「知る」「使う」「貯める」「殖やす」「稼ぐ」の5つの側面から、お金にまつわる不安や疑問を根本から解き、身につけておくべきリテラシーとお金に対する考え方について、「手取りでもらったお金を、『財布』『投資』『預金』の3つに振り分ける」という出口氏流「財産三分法」をその基礎としながら、丁寧にわかりやすく解説している。特にこの「財産三分法」は、極めてシンプルでありながら、これを当てはめて考えるだけで給与明細の見方からお金の使い分け方までが変わるほどに、お金運用の本質を突いた原則だ。ぜひ本書を手にとって確かめてほしい。

 さらに、マイホームを持つことの是非や20代にオススメの保険選びの方法、親の介護費用の考え方、投資のはじめ方などが紹介されており、20代の不安を片っ端から潰してくれる内容となっている。それはまさに、若いうちから知っておくことで自由で幸せなお金の知識が身につく「お金の教養」だと言える。

「お金の教養」は法律と一緒で、知っている人だけが得をするものなのかもしれない。少なくとも、正体不明の不安に支配されながら窮屈に生きる必要は無くなりそうだ。若い世代をはじめ、お金にまつわる漠然とした不安に煽られている全て の人に薦めたい、お金の教養を身につけるには最適の1冊だ。

文=松尾果歩