猫は匂いで挨拶する ―気まぐれな猫の性格を決めるのは遺伝か、環境か?

暮らし

公開日:2016/3/17


『ネコ学入門 猫言語・幼猫体験・尿スプレー』(クレア・ベサント:著、三木直子:訳/築地書館)

 猫語と聞くと「にゃーにゃー」という鳴き声や、もしくはこれを語尾につけた話し方をイメージされるかもしれません。ですが、本物の猫語は(もちろん鳴き声もありますが)実に多様なボディランゲージを駆使して発信されます。

 そのうちのひとつが、匂いです。猫は、時に人や物に体をこすり付けるという行動をとります。これはいわゆるマーキング行動ですね。猫を飼っている人は心当たりがあるかもしれませんが、猫は時に後ろ足のつま先立ちさせ、下半身を持ちあげるという体勢をとります。これは、自分の匂いを嗅がせやすくして、飼い主に検分してもらいたい行動なのだそう。猫同士の場合、お互いの匂いを嗅ぎ合う事が挨拶になるというので、前述の体勢は人間で言うところの握手を求めている状態かもしれません。

 こういった猫の行動に関して、アカデミックな解説を加えているのが『ネコ学入門 猫言語・幼猫体験・尿スプレー』(クレア・ベサント:著、三木直子:訳/築地書館)です。ちなみに、尿スプレーも、匂いをつけるという目的の上で「体をこすり付ける行動」と同種のものであると言えるでしょう。

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 猫の性格は、おおよそ2種類に大別できます。端的に、人間に懐きやすい性格か、懐きにくい性格か、です。そして、この性格ですが……どうやら、親猫から子猫へ遺伝するらしいという事がわかっています。父親の猫が人懐っこい性格だった場合、その子猫も同じような性格が発現するのです。これは、子猫が父猫を知らなくても起こる事から、性格が遺伝したのだと考えられます。

 一方で、環境的要因に左右される事も指摘されています。猫は、エサのもらい方などを母猫の行動から学習する習性があり、この母猫がリラックスした状態で子育てに臨んでいたかどうかは、子猫の性格決定の上でかなり重要な位置を占めています。つまり、猫の性格は遺伝的要因と環境的要因の両面からの働きかけがあるという事……そう、私達人間と同じなのです。

 ところで興味深い事実が、猫の社交性は、子猫の時から大人になっても変わらないという事。猫の社交性は、生後2週間から7週間の幼猫期にどれだけ人と関わっていたかに大きく左右されます。かといって、あまりに早い時期に母猫から引き離すと、人や他の猫に対し攻撃的な性格になってしまう危険性も指摘されています。これは、人間が「母親代わり」となった場合、食事などの世話はできても、ネコ語を始めとする猫の世界におけるコミュニケーションを教えられない事が原因です。ただ、これだけでは飼い主である人間に対してまで攻撃的になる理由を説明するのが難しいのですが、これは子猫が学ぶ事に一貫性がないせいかもしれないと本書では言及されています。母猫から引き離す事で、物理的に親離れをさせている一方で、行動面・情緒面における親離れをさせてやれない事から、猫の精神が不安定になっているのではないかという事です。もしも子猫の里親制度を検討する場合は、将来的に考えても生後2週間以上の個体に限定するとよさそうです。

 猫の性格については、猫種による差も確認できます。例えば、ペルシャなどの長毛種は、のんびりとしたおとなしい性格である個体が多く、人間の世話を嫌がらない事が特徴です。アンゴラは人懐っこく楽しい事が好き、ロシアンブルーはもの静かな恥ずかしがり屋、シャムは外交的で口数が多く、要求が多く、愛情深く、飼い主によく懐く。ブリティッシュショートヘアなどは、おもしろい事に雑種も含めて毛の色によって性格が違うとされています。赤茶色の猫は優しくおとなしい性格、黒猫はしつけにくいが落ち着きがある性格の個体が多いとか。

 また、人懐っこい性格と聞くと良さ気な印象を受けますが、それは逆に言えば人間に依存しがちになるという事でもあります。猫を飼う場合、その猫を存分に構ってやれるなら良いですが、もしも独り暮らしだったり、家人が皆仕事などで忙しかったりと、1匹にしてしまう状況が多く想定されるならば、2匹以上で飼育するのもひとつの手でしょう。

文=柚兎