地方の公的病院の7割は赤字。その内情とは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/28

20万部のベストセラーとなり、映画化もされたデビュー作『瞬』(幻冬舎)から4年。河原れんさんが満を持して執筆した新作は『聖なる怪物たち』(幻冬舎)。
今回の物語の舞台は、学園都市にある赤字続きの病院。そこから始まるのは、不可解さが増殖していくミステリーだ。新作について河原れんさんにお話を伺った。
「構想を巡らせていた時、ふと男性の主人公を書きたいという思いが強く出てきて。そしてミステリーという箱ものに、物語を入れてみたくなった。その思いがたしかなものになってから5分の間に、ストーリーはラストまで流れるように出てきました」
主人公は、小さな総合病院で睡眠時間さえろくにとれないほどの過重勤務に従事する外科医。だが、“目の前にいる人を助けたい”という、医師を志した時のまっすぐな理想を色褪せさせずに持ち続けている。
だが、ある日、彼が担当した飛び込み出産の妊婦が手術中に死亡。医療ミスに問われることを怖れ、秘密裏にデータを消去したことから不可思議なことが起きていく。
「人として当たり前の感情を持ち合わせていながら、ちらっと覗いてしまう毒は誰もがもっているもの。そしてその毒の出し方や在り方はそれぞれ違う。この作品では、人が隠し持っているその毒を描きだしてみたかった」
医療現場が舞台のため、専門用語も多く登場する本作。だがそれらがストーリーを難解にしていない。さらに何よりもリアリティを追求したくて、リサーチにはかなりの時間を費やしたという。
「母が看護師をしているので、家にある医学書を読み込み、勉強していきました。手術シーンなども母から詳細に話を聞くと同時に、医師の方に医療監修をしていただきました」
さらに物語の土台に横たわる、病院をめぐる現状も丹念に調べを重ねたという。
「地方の公的病院の7割が赤字を言われていますが、その内情はどうなっているのか。またストーリーに登場する飛び込み出産や、それが起きる土壌についても調べていきました。ミステリーを楽しんでいただくと同時に、今の日本の医療を取り巻くものや医師の方たちの大変さも知っていただけると思います」
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