“地味で決して美人ではない女”に惹かれる理由

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/28

サントリーミステリー大賞、大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞など多くの賞を獲得してきた垣根涼介の新作『月は怒らない』(集英社)は、枠にとらわれない“垣根小説”だ。純然たるミステリー小説ではなくとも、登場人物たちの行く末が気になるミステリー・テイストは彼の真骨頂といえるだろう。 化粧もせず服装も地味、目立たず美人でもない“女”・三津谷恭子に惹かれていく男たち――“女”が勤める役所の窓口で出会った多重債務者の整理屋、バーで若者に絡まれる“女”を助けた学生、交通事故の現場で被害者である“女”を世話した警察官。男たちは一様に恭子のことを“地味な女で決して美人ではない”とも自覚している。だからこそ“なぜ惹かれてしまうのか?”と自問する。
  
一方の恭子は3人の男たちと“関係を持つことを許す”。そして、自身がそうした態度を取る理由を一切語らない。悪女でも聖女でもないが、普通の女でもない。恭子とは何者なのか。その謎解きが本書のキモなのだ。
  
「小説家として読者に対する一番のサービスは“読みやすいこと”だと考えています」と垣根氏は話す。
  
「今回は結果的にミステリーの手法を取り入れたけど、謎を解かないから(笑)。じゃあ何を書いているかというと“いま書きたい世界”を書いている。ある意味、自分勝手ですよね。だからこそ、“お仕事”として読んでもらえるように書くのは当然だと思います」
  
サービスと気づかないサービスが本当のサービスだとしたら、垣根氏の小説はまさにそれなのだ。
  
(ダ・ヴィンチ7月号  今月のブックマークEXより)