「うっかりドーピング」してしまうことは本当にあるの?【専門家に聞いてみた】

スポーツ・科学

2016/4/2


『うっかりドーピング防止マニュアル』(リバネス出版)

 テニス界に衝撃が走った人気選手、マリア・シャラポワのドーピング告白。当初、「引退ではないか?」といった憶測も流れた「本人からの重大発表」は、ある意味では、引退以上にショッキングな内容であった。

 全豪オープンテニスのドーピング検査で陽性反応が出たのは「メルドニウム」。心不全の治療などに使用される薬物だが、スポーツで使用することにより身体機能が上がる可能性があるため、2016年1月に禁止薬物に指定された。シャラポワはメルドニウムを医師に処方され10年以上服用していたと話しており、禁止薬物に指定されたことをうっかり知らずに服用していたという。

 この告白には「シャラポワほどの選手であれば、本人が見逃しても周囲が気づくのでは?」などと疑問の声が上げられているが真相はまだ不明。処分も含めて今後の成り行きが気になるが、そもそも、今回のように「うっかりドーピング」してしまうことはあるのだろうか? 実はあるのだ、それが。

「最も多いのは風邪薬を服用して陽性反応が出るケースでしょう。次いで、輸入サプリメントが原因のケースも多かったですね。まだ実績の少ない選手や若い選手の中には、ドーピングの知識があまりなく、気づかずに体調管理と思って服用した市販の薬などに禁止薬物が含まれていた、なんてことがあるんです」と話すのは『うっかりドーピング防止マニュアル』(リバネス出版)の著者で薬剤師の遠藤敦さんだ。遠藤さんはそういった実態を知り、日本アンチ・ドーピング機構より認定されたドーピング防止の専門薬剤師資格「公認スポーツファーマシスト」を取得。現在、様々なドーピング防止活動に携わっている。

 現在のドーピング制度は非常に複雑で、防止には医学・薬学的な専門知識が必要。ちょっと知識があるくらいでは防ぎきれないだけに「うっかり」はなくならないのだという。

「過去には髭の塗り薬に含まれていた禁止薬物が皮膚から吸収され、尿に出て失格となったケースもあります。その選手はボディコンタクトが多い競技だったので、自らを強く見せる方法のひとつとして髭を伸ばそうと思ったそうです」

 なんという災難……。このように「うっかり」は、先ほどの風邪薬もそうだが、多くは選手がよかれと思ってやったことが原因になるため「悲劇」の様相が強くなるという。

「他にも“読み間違え”が原因といううっかりドーピングもありました。とても意識の高い選手で、成分を自分でチェックして市販薬を服用していたんですが、『dl-メチルエフェドリン』『メチルエフェドリン』を別のものだと思ってしまった。科学的な表記方法が違うだけで両方とも同じ禁止薬物なんです」

 かわいそうだがルールはルール、である。ちなみに「クレンブテロール」という禁止薬物があるのだが、実はこれ、海外では豚肉の肉質を変えるために使用されることもあるため、食事がドーピングの原因になることもあるとか。アスリートも一流を極めるとなると本当に大変である。

 ただ、トップ選手の多くは国家レベルでサポートされたり、周囲も細心の注意を払うので、現在は、よほどでなければうっかりドーピングはあり得ないとのこと。また検査のレベルも「プールに目薬一滴を落としても検出される」というたとえ話があるほど進化。故に抜け道を探すのもかなり困難だとか。故にシャラポワのケースも疑いの目が向けられているわけである。

「ドーピングはただの不正ではありません。本人の健康だけではなく、競技団体やスポンサーなど、多くの人達にも影響が及びます。だからこそアスリートの方は自分の体に入れるものには最大限の注意をしなければいけないし、専門家の力を借りることも必要です。そうやって練習など自分にしかできないことに集中できる環境を整えてほしいですね」

文=田澤健一郎