呉智英が太鼓判を押す新人マンガ家は漱石を超えるか?

アニメ・マンガ

2011/9/5

闇夜に岸に上がった彼を見かけた者はなく、聖なる泥に沈んでいく竹のカヌーを見た者もいなかった―― 世界中の文学者、SF作家たちに強烈な影響を与えたアルゼンチンの奇才、ボルヘスの代表作にして最高傑作とされる『円環の廃墟』(『伝奇集』所収)の一節である。
  
そのボルヘスが好んだといわれるのが「胡蝶の夢」。夢の中で蝶となって飛び回っていた。目を覚ますと自分は蝶でなく人間だ。しかし、これは蝶が夢を見て、その夢の中で人間となっているのかもしれない。『荘子』の中にある不思議なエピソードである。
  
エッセイ「マンガ狂につける薬」の中で評論家の呉智英さんは、ボルヘスと日本の新人漫画家岸浩史の『夢を見た』を対比させている。
  
『小説推理』(双葉社)で連載中の『夢を見た』は作者自身が見た夢をごく短いスペースの中にマンガとして再現している。本来、他人の夢の話は本人以外には退屈きわまりないものだが、この『夢を見た』は漱石の『夢十夜』に共通するエンターテインメント性が見て取れる。
  
「マンガ評価をやっていて嬉しいことの一つは、有望な新人の出現を目の当たりにできることである」と呉氏。その一人に数えられた岸浩史と彼の処女作『夢を見た』に注目したい。
  
(ダ・ヴィンチ7月号 マンガ狂につける薬より)