二階堂ふみが無邪気でエロい“金魚”を演じる『蜜のあわれ』 原作本が売れている!

文芸・カルチャー

2016/4/3


『蜜のあはれ』(室生犀星/講談社)

4月1日から全国公開されている映画『蜜のあはれ』。人の姿に化けた金魚・赤子を二階堂ふみ、彼女と共に暮らす老作家・おじさまを大杉漣が演じたことで注目を集めている。ちなみに赤子は「他の者には女に見え、金魚屋には金魚に見える」という、美しい女の子。まさに赤子は、“金魚が擬人化”された存在だが、原作の同名小説『蜜のあはれ』(講談社)は、詩人としても活躍していた作家・室生犀星(むろうさいせい)が昭和34年に発表した短編小説。現在では、マンガや小説などの創作ジャンルとして成立している擬人化作品が昭和中期には存在していたと思うと、何とも感慨深い。

「おじさんとあたいのことをね、こい人同士にして見たらどうかしら」という赤子のひと言から、2人は“恋人”として日々を過ごすことに。そんな彼らの前に謎多き美女・田村ゆり子が現れ、金魚と老作家の恋愛譚は少しずつ進んでいく……。

同作は、赤子が人に化けていると思いながら読み進めていると、いつの間にか実際に金魚の尾ひれに触れたり、小さな金魚とのキスを連想させる表現に切り替わる、独特な表現が妖しさに拍車をかけている。

「どう、あたい、つめたいからだをしているでしょう。ほら、ここがお腹なのよ。」
「お、冷たい。」
(中略)
「おじさま、そんなに尾っぽをいじくっちゃだめ、いたいわよ、尾っぽはね、根元のほうから先のほうに向けて、そっと撫でおろすようにしないと、弱い扇だからすぐ裂けるわよ、そう、そんなふうに水をさわるように撫でるの、なんともいえない触りぐあいでしょう、世界じゅうにこんなゆめみたいなものないでしょう。」
「先ず絶無といっていいね、人間なら舌というところだ。」

またあるときには「おじさまが小説の中で化けて見せていらっしゃるのよ、もとは、あたい五百円しかしない金魚なんです。それをおじさまが色々考えて息を吹き込んで下すっているの」なんて、作品の世界観を突然暴露したり、「おじさまは、何時も、しんせつだから好きだわ、弱っちゃった」なんてことをさらっと言ってのける……。予測不可能な赤子の一挙手一投足に、おじさまはもちろん読者も翻弄されてしまう。

そんな赤子を「ちんぴら」と呼んでみたり「金魚の子は可愛いね、きみのように大きくなると、憎たらしいところが出てくるけれど。」などと憎まれ口をたたくおじさまは、彼女のストレートな愛情に対する照れ隠しなのかもしれないと考えると、なんとも愛おしく思えてくる。不思議なカップルなのだ。

異種間恋愛や擬人化、少々の怪奇と艶のある表現など、幻想文学の魅力が詰まっている『蜜のあはれ』。読み終わる頃には、あなたも赤子の魅力に夢中になっていることだろう。

文=不動明子(清談社)