毒か薬かは人間次第。猛毒ランキング1位は…「青酸カリ」じゃないの? 事故や事件と毒についても語る1冊

科学

2016/4/7


『毒の科学 身近にある毒から人間がつくりだした化学物質まで』(齋藤勝裕/SBクリエイティブ)

 推理小説での殺人シーンの定番といえば、毒。そう、毒入りのお茶に口を付けるやいなや、「うっ」と胸に手を当ててバタッと倒れるあのシーン。『名探偵コナン』でも、毒入り牛乳や、毒を塗ったダーツの矢など、毒を仕込んだアイテムが登場している。こうした毒殺が現実で可能なのかという疑問、誰でも一度は抱いたことがあるのではないだろうか。そこで、『毒の科学 身近にある毒から人間がつくりだした化学物質まで』(齋藤勝裕/SBクリエイティブ)から、よく耳にする毒について調べてみた。

 まずは、最も耳にする機会が多い「青酸カリ」について。正式名はシアン化カリウムといい、自然界には存在しない人工物だ。胃の中で胃酸と反応することで青酸ガスが発生し、このガスが食道を抜けて肺に到達すると、死に至る。ちなみに致死量は約200ミリグラム。だから、青酸カリを口に含んで一瞬で死ぬというのはフィクションの中だけのことだ。現実には、飲んでガスが発生するまでの時間、被害者は生きていることになる。

 この「青酸カリ」、殺人シーンによく出てくるということは、やはり強力な毒なのだろうか? 毒のランキングを見てみよう。堂々の1位は「ボツリヌストキシン」。食中毒を引き起こす毒素だ。2位は「破傷風トキシン」(テタヌストキシン)。傷口から感染する破傷風菌が出す毒素。3位は「リシン」。トウゴマという植物が含む毒素だ。「青酸カリ」は? というと、こちらは19位。なんと、タバコに入っている「ニコチン」よりも弱い。もっとも、このランキングは、体重1キログラム当たり、どれだけ少ない量で死に至るかという基準のランキングだ。

 さて、1位に輝いた「ボツリヌストキシン」だが、食中毒の原因としてたびたびニュースに出てくるので、聞いたことがあるかもしれない。この毒素を出すボツリヌス菌は100度で加熱しても死なない。芽胞という耐久性の高い細胞構造に変化し休眠、熱が冷めた頃改めて繁殖を開始する(毒素ボツリヌストキシン自体は100度で10分間加熱すれば毒性が消える)。やっかいな毒めと思うのだが、この「ボツリヌストキシン」、なんと医療分野で活躍をしているという。過活動膀胱炎、慢性偏頭痛の治療、目じりのシワ取りにも有効とのこと。毒も使い方によっては、大きな人間の味方になるようだ。

 ちなみに、1995年のオウム真理教による地下鉄サリン事件で、一躍有名になった「サリン」は、ランキング13位。第1次大戦時に行われた化学兵器開発から発展してできた人工物だ。吸うと、筋肉が異常な興奮状態になり、内臓を含む体の動きが失調、死に至る。現在でも当時の後遺症で苦しむ被害者が数多くいることを、忘れてはならない。

 また、現在特に社会問題になっている合成ドラッグだが、これも毒だ。毒なのに、なぜ禁止にできないのだろうか? それは、法律上、成分は合法なので、取り締まりが難しいからだという。法律上禁止されている成分が入っている商品ならば、すぐに摘発することはできるのだが、業者はそれを別の似た成分に入れ換えて販売しているのだ。しかも、売る人はそれを試し飲みしているわけではないので、買う人が最初の試飲者ということに。飲んでみるまで、どのくらい危険なものかはわからないのだ。

 毒は人間の敵! と思って読んでいると、著者のこんな言葉が目に入った。「毒は薬、薬は毒」。つまり、人間が毒をどのように利用するかによって、有用にでも害にでもなりうるということだ。例えば、毒草のトリカブトに含まれるアコニチンという物質は、強心剤として用いられている。また、ダイナマイトの原料、ニトログリセリンは、狭心症の薬として。特に、動植物がもつ天然の毒は、研究者のあいだでは薬という認識の方が強いのだとか。毒か薬かは人間次第ということだ。

「青酸カリ」だって、実は工業的に重要な物質だ。毒性、有用性ともにまったく同じ「青酸ソーダ」(シアン化ナトリウム)が、金・銀・プラチナなどの金属メッキの製造や、金鉱山での金の選別に用いられているのだ。この「青酸ソーダ」は、日本だけで年間3万トンが生産されている。つまり、あるところにはある、結構メジャーな物質なのだ。これを知ると、「青酸カリ」が毒ランキング1位ではなくても、手に入りやすいという意味で殺人シーンに多用されるのもうなずける。私たち読者が、毒殺シーンといえば「青酸カリ」と思ってしまう理由は、どうやらこのあたりにあるようだ。

 今度推理ものを楽しむときは、出てくる毒にちょっと注目。あなたも名探偵になれるかも?しれない?

文=奥みんす