トヨタ、ANA、清掃会社テッセイ、チーム増田…米ハーバードが「日本企業」に学び続ける理由

ビジネス

2016/4/6

 一般に日本人は「日本人について書かれた本」に関心が高い傾向があるが、中でも最近の社会情勢を反映してか、このところ「日本アゲ」の本が目に付く。確かにほめられるのは気分がいい一方で、根拠に乏しい精神論的なものも多く、正直「そうまでして自信を持ちたいのか、日本人」と思わないでもない。

 だが、先ごろ刊行された『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(佐藤智恵/PHP研究所)は、確かな事実に裏付けされた内容によって、素直に誇らしい気持ちになれる一冊だ。

 元NHKのディレクターで現在は作家・コンサルタントとして活躍している著者が「ハーバードでいちばん人気のある国は日本」と現地の日本人留学生から聞いたことをきっかけに、同大の教授陣に取材し「ハーバードはなぜ日本に学ぶのか」を探ったのがこの本。通常、ハーバードでの講義は「ケース」(特定の国や企業が重要な決断に至るまでを事例としてまとめた教材)を元に議論形式で行われており、このケースに多くの日本企業が取り上げられているという。必修として6つ(トヨタ、楽天、ANA、ホンダ、JAL、アベノミクス/2014年度)、中でもトヨタとホンダは何十年も普遍的な教材として活用されてきたのだとか。

 とはいえ最近、やはり全体からみれば数が多いのは中国やインドのケース。だが日本のケースは「忘れられない事例・人生に影響を与えた事例」として、学生や卒業生から高く評価されているのだという。

 たとえば最も人気が高いのは新幹線専門の清掃会社テッセイのケース。この企業は清掃員の仕事に誇りが持てず業績も悪い状況を、社長自らが現場にとけ込んで意識変革を起こし、「新幹線お掃除劇場」と世界の注目を集めるまでに激変させた。学生はこの事例を通じて、社員のモチベーションをあげるのは報酬だけではなく「誇りとやりがい」にもあること、そしてそれを実現するための「現場にとけ込むリーダーシップ」の重要性を実感し、よりよいリーダーになるためにはどうしたらいいのかを真剣に考えるようになるという。

 あるいは、明治維新、戦後の経済成長などゼロから安定社会を作ってきた日本の歴史もケースになっており、1730年に大坂堂島に設立された世界初の先物市場である「堂島米会所」が取り上げられている。学生は金融システムの成り立ちを取引と金融制度の両面から理解しながら、不確実性の時代を生きる指針について考えていく。

 意外なところでは、福島第二原発をメルトダウンの危機から救った「チーム増田」の危機的状況下のリーダーシップや、原爆投下を決断したトルーマン大統領と終戦の決断をした昭和天皇を通じ“倫理的に究極の決断をしたリーダー”を考える事例などもあるという。

 有名なトヨタ自動車のカイゼン運動のような事例ばかりではなく、こうした日本の歴史までが教材になり、いずれも学生たちの心に残っているという事実は素直に喜ばしい。本書ではさらに「日本の強み」「さらに世界に貢献するにはどうすべきか」を教授陣に取材し、本質的な「日本の強み」を分析しているのも興味深い。いずれにせよイージーな自己評価ではなく、権威ある第三者が下す評価には勇気づけられるし、案外、自分たちには見えていないことにも気がつかされる。

 超高齢化社会、続く経済低迷など、日本の未来は世界の問題の先取りともいわれている。この難局をどう乗り切るか、今後もケースの宝庫として世界の目が日本に注がれていきそうだ。

文=荒井理恵