クレイジーボーイ=水島努監督の手で生まれたアニメ『監獄学園』! その赤裸々な制作秘話!

マンガ

公開日:2016/4/11


『アニメ監獄学園を創った男たち(ヤンマガKCスペシャル)』(平本アキラ:原作、ハナムラ:作画/講談社)

 深夜アニメが増えすぎて、全部観ていると時間がいくらあっても足りない昨今。多いときには週に40本以上の作品が放送されることもあり、それだけの数になると覚えているのも一苦労だ。だから作り手も視聴者に強いインパクトを残そうと、過激な手法を用いたりする。やたらとエロかったり、激しくグロかったり、とんでもなくウツなストーリーだったりなどなど。そして放送倫理上あまりに危険な映像が流れるときには、問題の箇所に謎の光線が走ることも日常茶飯事だ。

 そうした放送倫理的な観点からいえば、とてもじゃないが映像化は無理だろうと思われていた作品がある。それが『週刊ヤングマガジン』で好評連載中の漫画『監獄学園(プリズンスクール)』だ。しかしながら2015年7月、なんとアニメ化されたのである。当然、製作にはさまざまな困難が待ち受けていた。『アニメ監獄学園を創った男たち(ヤンマガKCスペシャル)』(平本アキラ:原作、ハナムラ:作画/講談社)は、スタッフたちの過酷な闘争の日々を綴った作品。冒頭「この作品はかなりの部分が事実に基づいていますが、あくまでフィクションとしてお読みください」と書かれている。早速、予防線とも取れる前書きから入るあたり、一体どんなエピソードが語られるのやら……。

 きっかけは講談社版権窓口(通称ライツ)部長・マツシタ氏のひとことからだった。アニメ制作会社「J.C.STAFF」のマツクラ氏と映像関連企画販売会社「ワーナーエンターテイメントジャパン」のカワセ氏に連絡を入れ、「アニメ化したい講談社の作品を持ってきてほしい」と伝えたのだ。するとどうだろう、ふたりの上げてきた企画は、偶然にも『監獄学園』で一致! 実は双方とも「軽いボケ」くらいのつもりだったらしいが、一致してしまった以上、検討する流れに。そして因果なことに、アニメにできそうな監督の目星がついてしまったのだ。

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 水島努──『ガールズ&パンツァー』や『SHIROBAKO』など多くの話題作を世に送り出した、現在日本で一番忙しいといわれるアニメ監督である。その人こそ、アニメ版『監獄学園』の監督を務めることができると目される、ただひとりの人物。ヤングマガジン編集部で『監獄学園』の担当編集・ツジ子氏が監督就任要請のため、某アニメ制作会社へ向かう。するとそこには、なんか監獄っぽい部屋で仕事に取り組む水島氏の姿が! この状況、何かのアニメで見たような気がしなくもないが、それはさておき! 水島氏は監督への就任を快諾し、いよいよ波乱に満ちた航海がスタートするのだった。

 とにかく原作ではやたらと乳とか尻とかが出まくるので、製作が難航するのも当然である。そこへ監督が一部では「クレイジーボーイ」とあだ名される水島努氏なのだから、危険度はさらに加速。内容チェックのためテレビ局に提出するシナリオや絵コンテに、普通なら2~3箇所に付箋がつく程度なのが、本作ではハリネズミのようだったというのも頷けよう。さらに声優への演技指導も「咳はテンポよく」とか結構な無茶振り。加えて無音で行こうと決まっていた脱糞シーンの音源を無断で作ってしまう暴走っぷりを見せる。果てはスケジュールがキツキツなのに自ら絵コンテを切ろうとするが、スタッフに「総集編」を突きつけられて断念。水島氏が監督した某アニメに「総集編はもういやだ」というサブタイトルがあったが、マジで恐れていることがよく分かった。

 こうした苦闘の末に誕生したアニメ『監獄学園』。多くのエピソードに彩られた本書ではあるが、一番意外だったのは脚本家・ヨコテ氏の件。尻画像を送りつけたり、風呂に入らず4日モノのヴィンテージパンツで会議に出たりしたこともあるとか。マジか、アニメのみならず特撮界でも活躍する氏が……。いや待て、冒頭にフィクションとあったではないか。そうだフィクションだ、そう信じておくことにしよう。

文=木谷誠