剣でも、魔法でもなく、少女は“言葉”の力で世界を切り拓く【西尾維新や辻村深月も受賞歴のある「メフィスト賞」受賞作『図書館の魔女』】

文芸・カルチャー

2016/4/14

本とは、単なる文字の連なりではなく、「言葉」であり、「声」であり、「音」である。現に、ある研究では、本などの文章を読む際に、声に出さずに黙読していても頭の中で文章を読み上げる「声」が聞こえる、という人は8割を占めているらしい。素敵な本に出会った時、その物語が終わってしまうこと、その本の「声」とサヨナラをするのが、寂しくてしかたがなく感じる、という人も少なくはないのかもしれない。この超長編の物語も、ぜひ頭の中で「声」にして楽しみたい作品のひとつだ。

高田大介著『図書館の魔女』(講談社)は、剣でも、魔法でもなく、“言葉”の力で世界を切り拓いていく少女の異世界ファンタジー。文庫版で全4巻におよぶ超弩級の大長編作だ。第45回メフィスト賞を受賞したこの作品ほど、丁寧に作り込まれた高尚なファンタジーは他に類を見ないのではないか。言語学を専門とする作者だからこそできる物語の叙述。物語の世界を構成する文化や政治的背景、言語に関する詳細な描写。丁寧に紡ぎ出された言葉の世界に、気が付けば、どっぷりとはまり込んでしまう。

主人公は、鍛冶の里に生まれ育った少年キリヒト。彼は王宮の命により、史上最古の図書館に暮らす「高い塔の魔女(ソルシエール)」マツリカに仕えることになった。古今の書物を繙き、数多の言語を解して策を巡らし、「魔女」と恐れられていたマツリカであったが、実は、彼女は自分の声を持たないうら若き少女だった。一方で、キリヒトは文字を書くことも読むこともできない。キリヒトは、マツリカが満足するようなお務めができるのだろうか。ほのぼのとした日常と冒険、政治的駆け引きと戦争…。次第に、2人は、近隣大国の剥き出しの覇権意識と争い、自らの国、そして、自分自身の身の危険に晒されていく。それぞれの運命に翻弄されていく2人は一体どうなってしまうのか。

この物語は、ファンタジーとはいえ、「魔法」は使われず、その存在さえ否定されている。だが、声を持たないマツリカの「言葉」は、人を動かし、魔法以上の力を発揮する。近隣国との問題をも武力ではなく、言葉の力で解決しようとするマツリカ。そんなマツリカの役にたとうと、キリヒトも奮闘する。人並みはずれた耳の聡さと察知能力をキリヒトが持っていることに気づいたマツリカは、彼に信頼を寄せていく。そして、マツリカはキリヒトとの間だけで通じる、手の中で指を使って話す「指話」を生み出し、彼を彼女の通訳たらしめようとするのだ。2人が「言葉」を介してふれあうさまは、どうしてこんなにも美しいのだろう。普段当たり前のように使う「言葉」の尊さに気づかされる。

ファンタジーといえど、冒険要素も、胸キュン要素も、ミステリー要素もある贅沢な作品。日常の出来事を描いていた物語が、次第に速度をあげて展開していくさまは、とてもスリルがある。物語が終わることなく、いつまでも続くことを願ってしまうような、そんな作品がここにある。

文=アサトーミナミ