詐欺、横領、脱税……元“天才”犯罪者たちが社会を蝕む「犯罪収益」をかっさらう!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15


『トクシュー! 特殊債権回収室』(吉野茉莉:著、巖本英利:イラスト/KADOKAWA)

いつか憧れた揺るぎないヒーロー像とハードな人間ドラマを送り出す小説レーベル「ノベルゼロ」。大人が惚れる大人の主人公を通して、物語に触れる喜びを追求していく。そんな「ノベルゼロ」から今回取り上げるのは、吉野茉莉著『トクシュー! 特殊債権回収室』(巖本英利:イラスト/KADOKAWA)だ。

本書の主人公・栴檀東予(せんだん・とうよ)は、40億円の横領の疑いを掛けられた元エリート会計士。冤罪で犯罪者にされたもののその才能を買われ、信用調査会社「JMRF」の特殊債権回収室、通称「トクシュー」に再就職する。トクシューは政府委託の民間企業の一つとして存在し、主な業務は犯罪収益がマネーロンダリングされる前に回収すること。国税庁や警察庁、厚労省の麻薬取締部などから調査の依頼を受けている。

各捜査機関があるのに、なぜトクシューが必要なのか。それは犯罪を取り締まることができても、犯罪がもたらす損害金はうやむやになってしまうことが多々あるからだ。逮捕はできても、金は戻らない。その金を取り戻すスペシャリストの集まり、それがトクシューなのだ。

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栴檀たちは、冒頭から様々な金融犯罪に首を突っ込んでいく。詐欺、横領、脱税、麻薬取引――。栴檀の相棒でもあるアロハシャツの男・蘇合(そごう)が口八丁手八丁で犯罪者を追い詰め、栴檀が帳簿などの経理データから不正な会計操作を見抜く。驚くべきは、その見破り方だ。たとえば、10万件以上の会計処理データを5分で記憶、200件以上もの不正を発見、といったまさに神業に等しい天才性を物語の随所で発揮していく。

こうしたアンダーグラウンドな犯罪と回収屋の「化かし合い」が描かれていく本作だが、面白いのはその手口、状況設定、描写のリアリティだ。あくまでもフィクションだが、まるでノンフィクションを見ているかのようなスリルがある。著者の本業が組織の財務会計担当者ということも大きいだろう。金の動きに対する敏感さや数字へのこだわりが随所から見て取れ、金融犯罪の現実を垣間見ることができるのだ。なんなら本書に書かれているとおり、「やろうと思えば明日からでも」真似できる事案が描かれるが、当然のことながら真似をしてはダメ、絶対。

さて、このような形で作品の説明をすると、お堅め金融小説と思われるかもしれないが、そこはご安心を。金融関係はちんぷんかんぷん、数字は苦手という人でも十分に楽しめる人間ドラマがあり、キャラクターノベルの面白さがある。

まず、トクシューの人間たちはみな個性派揃い。栴檀と蘇合のほか、ディスプレイで会話する元ハッカーの沈水(じんすい)、紅一点で元国際指名手配犯の零陵(れいりょう)といった元犯罪者の室員も、持ち前の才能を活かして大活躍。彼らに名前と役割を与えた室長の馬酔木(あしび)の指示のもと、金融犯罪に真っ向から挑んでいく。ときには犯罪すれすれのこともするが、犯罪収益をかっさらう様はなんとも爽快だ。

そして物語は、とある振り込め詐欺の調査から大きく転換し、点と点だった小さな事件は、ある一点に収斂していく。栴檀たちが予想もしなかった大規模な金融犯罪にトクシューはどう挑んでいくのか。「マネー」と「欲望」が渦巻く熱い物語が、いま始まる。

文=岩倉大輔

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