本郷猛、最後の変身!? 映画『仮面ライダー1号』がぼくらに伝えたかったこと

映画

公開日:2016/4/16

『仮面ライダー1号ぴあ(ぴあMOOK)』(ぴあ)

 今から45年前――1971年4月3日、最初の『仮面ライダー』がぼくらの世界に姿を現した。

仮面ライダー・本郷猛は改造人間である。彼を改造したショッカーは世界制覇を企む悪の秘密結社である。仮面ライダーは人間の自由のためにショッカーと戦うのだ。
(『仮面ライダー』第5~13話ナレーションより)

 漆黒の仮面、真紅の瞳、光を放つ変身ベルト――バッタの能力を持つ改造人間は、瞬く間に少年たちのヒーローと……はならなかった。

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 ダークで怪奇ホラーな画面作り、闇夜の街に潜んでいそうな怪人たちのリアルさ、改造人間の哀しみと憎しみを打ち出した重いストーリーは、ぼくらには「怖すぎ」たのだ。

 しかし、2号ライダー登場を機に仮面ライダーは日本に「変身ブーム」を巻き起こし、平成28年現在もシリーズ最新作『仮面ライダーゴースト』が放送され続けるほどのパーマネントヒーローとなった。

 昭和ライダー、平成ライダーなどとカテゴライズされるほどに増殖した仮面ライダーの中でも、今なお、根強い人気を誇るのが、最初の藤岡弘、氏演ずる本郷猛=仮面ライダー1号である。

 ぼくらの心を掴んで離さなかった本郷ライダーが、誕生から45周年の今、映画『仮面ライダー1号』として帰還し、話題になっている。

 本放送終了後も、テレビや映画にゲスト出演することはあったが、仮面ライダー1号をフィーチャーした“主演映画”は、本作が初めてだ。

 仮面ライダーと同じ年に生まれた筆者の原体験は、シリーズ2作目の『仮面ライダーV3』だが、本郷ライダーとは“同い年”であり、「仮面ライダーという現象」そのものを愛する者としては、見ざるを得ない作品である。というわけで、公開初日に劇場へ行った!

 正直、筆者は、少年時代に見たヒーロー役者が年を重ね、変容した姿で変身したり、戦ったりする作品があまり好きではない。“ぼくらが憧れたヒーロー”は、少年時代に出会い、心に焼き付いた、あの時のまま、心に生きていると思うからだ。

 だが――映画開始から数秒……ほんの数秒で、筆者のちっぽけなこだわりなど、藤岡弘、氏=本郷猛によって一瞬にして打ち砕かれた。

 圧倒的なのだ。70歳にして再び、仮面ライダーに変身する藤岡氏の存在感、往年のデザインを進化させた仮面ライダー1号のカッコよさ、ノーヘルでバイクに乗る本郷猛、青空をバックに「ライダーァァァパァァンチ!!」「ラァイダァァァーキィィィック!!」と必殺技を繰り出す仮面ライダー1号、何もかもが理屈抜きに、大人になった“ぼくら”の胸を熱くするのだ。

 気づけば声を殺し、「カッコイイ……カッコイイ」と繰り返して悶え、ライダーキックの場面では無音で拍手を送っていた。

 その一方で、ストーリーにはツッコミどころが満載だ。ネタバレは避けるが、バイト、医者、火葬……仮面ライダーの設定的に、それってどうなのよと首を傾げたくなる場面が多々ある! だが、そんなものは些細なことだ。本郷猛という炎の前には、揚げ足取りなど意味がない。本郷猛がいるだけで、何もかも「そういうものだ」と思えて来る。

 なぜ生命が大切なのか?――命がけの戦いに挑み、後輩ライダーにーに、観客に問いかける本郷猛の言葉が重く熱いのは、その言葉が作り物ではないからだ。藤岡氏の70年の人生が、強い信念が、そこに宿っているからだ。

 その詳細は『仮面ライダー1号ぴあ(ぴあMOOK)』(ぴあ)の藤岡弘、氏のロングインタビューを読んでいただきたいが、ここでは、原作者・石ノ森章太郎先生とテレビシリーズの平山亨プロデューサーとのやりとりを紹介したい。

 「続編のシナリオは書けますか」と問うた平山氏に、石ノ森先生はこう答えたという。

「今の藤岡くんを見ればいいじゃないか。あれがその後の仮面ライダーだよ

 国際俳優として世界の舞台で戦い、世界各地でボランティアとして難民救済などに奔走し、仮面ライダーとして何千万もの人々を勇気づけて来た藤岡弘、氏の生き様こそが、仮面ライダー1号なのだ。

 ヒーローが年齢を重ねるのも、肉体的に加齢するのも当然なのだ。だがそれが、衰えることと同義ではない。人間として、ヒーローとして強く、輝きを増すことを、本郷猛が、仮面ライダー1号が教えてくれるのだ。

 “ぼくら”は今、ショッカーではない現実という名の怪物たちと戦う、大人になった。挫けそうなとき、苦しくなったとき、思い出してほしい。45年経った今も、仮面ライダー1号は戦い続けている。本郷猛は、生きている。同じ時を、ぼくらも生きている。それが、今を生きる勇気になる。

 人は一人では生きられない。過去も未来も、本郷猛もぼくも繋がっている。「なぜ生命が大切なのか?」への答えは、そこにある。

 映画『仮面ライダー』を観ずして、次の45年へは進めない。

文=水陶マコト