俳優・山田孝之はドSなのか?『実録山田』で百獣の王・武井壮を追い詰める

芸能

更新日:2016/4/23


『実録山田』(山田孝之/ワニブックス)

 「俳優・山田孝之ワールド全開の随筆集」。これが『実録山田』(山田孝之/ワニブックス)の宣伝用コピーである。なかなかうまい戦略だ。普通、「あの○○ワールド」という表現は、そこにどんな世界が待っているのかわかっている場合に使うことが多い。

 しかし本書は山田孝之の処女作なのだから、このコピーを読んで「お、山田孝之の“あの”世界ね」とピンと来る人はまずいない。その分逆に、本書にどんな“あの”が待っているのかすごく気になり始めるのだ。

 ちなみに山田は1983年生まれの現在32歳。1999年に『サイコメトラーEIJI2』(日本テレビ)で俳優デビュー。その後、2005年に映画『電車男』で主役を演じて以降は、映画が活躍の中心となった。2007年の映画『クローズZERO』からはワイルドな役を中心に演じるようになり、今では無精ひげもトレードマークのひとつである。

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 山田は、宣伝以外ではほとんどマスコミに登場しないため、どんな人物なのかわからずミステリアスな存在と言われている。そんな山田が、なぜ今、処女エッセイを上梓したのか、その思いのたけが語られているはずと期待した。しかし記されていたのは、「今回本を書くことになりました」(「はじめに」より)という、ひと言だけである。

 ここにひとつ目の山田孝之ワールドがある。「本といえども自らの胸のうちは明かさず」である。

 そんな本書は、9話のエッセイと、十種競技の元日本チャンピオンでタレントの武井壮との対談「人類の弱点」で構成されている。

 エッセイ「おじい」では沖縄の祖父との思い出、「夢」では筆者がよく見るという空を飛ぶ夢について、「僕の居場所」ではタイトルそのままのことを直球で綴る。この3編を舞台にたとえるなら、華美な演出のない台詞劇「ストレートプレイ」である。

果てしなく続く妄想の無限ループ

 残りの6編のエッセイ「はじめに」「学力」「価値」「アメリカ」「東京」「きゃろらいん」に共通するもの、それは「妄想」である。

 著者が本書で駆使するのは、直感的妄想とでもいうべきものだ。出だしこそ各タイトルに沿ったテーマで綴り始めるのだが、登場するあるワードや出来事をきっかけに、妄想の連鎖の無限ループが始まり、テーマはどんどん異次元へとワープする。

 こうした世界観を舞台にたとえるなら、「シュール劇」「カオス劇」「即興劇」と言えるだろう。

 特に妄想大作「東京」において、山田が好きなケーブルテレビ局の番組の紹介から突如として始まる妄想ループの、落としどころのまったく見えない展開は、それこそ「妄想師」とでも呼びたくなるような、山田の秘めたる才能が見事に開花した作品だ。

 ここに2つ目の山田孝之ワールドがある。「とにかく妄想の連鎖が好き」なようである。

百獣の王・武井壮との対談「人類の弱点」

 そして最後の武井壮との対談「人類の弱点」。対談の前半部分で山田は、武井に彼の持ちネタである「動物の倒し方」や十種競技の内容を紙上で披露させる。まるで武井がその身体能力から人類最強であるかのように持ち上げる山田。

 しかし続く後半部では一転、山田はある条件を持ち出し、「こういう環境になったら武井さんは何もできませんよね?」と、ジリジリ、ネチネチと武井を追い詰めていくのだ。

 そう、この対談、「人類の弱点」というタイトルだが、その目的は山田の理不尽な妄想的世界の土俵に武井を引っ張りあげ、「武井の弱点」をさらけ出し、無能化することにあるのだ。この対談を舞台にたとえるなら、「ソフトSM劇」もしくは「不条理劇」である。

 ここに3つ目の山田孝之ワールドがある。「ドS傾向・強(たぶん)」なのだ。

 ちなみに山田は本書で、役者としての自分にはほとんど触れていないが、唯一、『凶悪』(2013年9月公開)での芝居については「価値」の中で心中を明かしている。この作品の公開前、宣伝の場なのに「自分の芝居はダメでした」と自分にNGを出してしまったそうだ。その事の次第などが記されているので、興味のある方はぜひ、「価値」をチェックしてみてほしい。

 ここでは筆者が勝手に妄想した3つの“あの”山田ワールドをあげてみた。さて、あなたは本書から、いったいどんな山田ワールドを見つけるだろうか…。

文=ソラアキラ